PDAで辞書を持ち歩こう

 

マルチメディア辞典が入ったE−65

 最近の日本語入力ソフトはかなり賢くなっているようで、変換しながら同音異義語の違いも確認できるようなものまであったりします。まさに辞書いらずでも何とかなるようなことにもなりますが、何も辞書というのはわからないことを調べるだけのものではありません。目的の言葉のまわりにある風景なども同時に目に入ってくることによって、楽しくなることもあるものです。そんな辞書を外で使う機会の多いPDAで使えるようにしようと、いろいろ考えてみました。(ちなみに、これをごらんの方のパソコンがウィンドウズであることを前提に書かせていただいています。)


●電子辞書との違い

 このような目的で売れているのがいわゆる「電子辞書」というものです。搭載されている辞書も簡易的な辞書ではなく、広辞苑搭載は当り前で、実に多くの辞書が入り、受験生のための参考書まで入っているものすらあります。サイズもコンパクトで、電源も乾電池という汎用性が受けたのか、かなり売れているようですね。ただ、搭載する辞書のライセンスの問題もあるのか、価格は割と高めで、学生などちゃんとした目的がある人が買うのなら価格に見合った価値があると思いますが、私などのようにちょっと使ってみようという人にとってはそこまでして手に入れようとは思わないというのも実情です。そこでまず、市販の電子辞書と、PDAに辞書を入れて使う場合どういう違いがあって、何がメリット・ディメリットなのかその特徴を考えてみました。こういうことを比較しながら、自分にはどちらがいいのか判断するめやすになってくれれば幸いです。

 

■電子辞書の特徴

・専用機なので、パソコンやPDAのように、突然停まったり、暴走することはほとんどない。

・必要な辞書が最初から組み入れられているので、自分に合った製品を購入すれば、以降追加投資の必要がない。(ただし、電子ブックやメモリカードのような形で追加の辞書がメーカーから用意されているものもあります)

・乾電池で長時間動く。

・動作もきびきびして待たされることがない。

・パソコンの操作に不慣れな人でも、簡単に操作できる。

 

■PDA辞書の特徴

・すでにPDAを持っている場合は、それを生かす形で導入できる。

・電子ブックやパソコン用など、さまざまな辞書を活用し、自分の好きなものをメモリカードの容量だけ入れることができる。

・さまざまなPDAで利用できるので、データを複数のPDAで使い回すことも可能。

・画面がカラーなら、色分けした形での閲覧もできる(専用機にも最近はカラーのものもあるようです)。

・もともとが辞書のために作られたものではないので、辞書を引きながら文章を書いたりインターネットを使ったりとPDAの機能にプラスして活用の幅が広がる。

 

●導入のための準備

 以上のような特徴をふまえつつ、導入のために知っておきたいことなどを書いていきます。

 まずはハードですが、一口にPDAと言っても種類があります。ソニーのクリエに代表されるPalmであるとか、シャープのザウルスの新型はリナックスを搭載しています。私の利用しているのはそのどちらでもないウィンドウズCEを今は主に使っています。というわけで、ここから紹介する方法は、ウィンドウズCEマシンを使ってのやり方となります。

 辞書を引くためにはソフトが必要なのですが、ウィンドウズCEを辞書にするために一番ポピュラーなのは「Buckingham EB Player for CE」と呼ばれる閲覧ソフトでしょう。このソフトは慈善団体に寄付をすることでライセンス登録のためのキーワードをもらえるというソフトなのですが、今現在、作者のメールサーバーが止まっているようで、自動発行されるはずのライセンスキーが入手できない状態です。ライセンス未登録の場合は、何回か検索ボタンを押しているとライセンス未登録を示すウィンドウが出てきて作業を中断させられますが、今のところはそれを回避する方法はありません。多少使いづらくはなりますが、それ以上に便利なソフトですので、私はそのまま使っています。具体的な使い勝手などはウィンドウズで動く「Buckingham EB Player」(こちらはフリーソフトのようです)で、一度試してみるといいと思います。

 次に必要なのは肝心な辞書のデータです。Buckingham EB Playerでは電子ブック型式の他、パソコンで提供される辞書が多くサポートしているEPWING型式をサポートしています。システムソフト社がデータサイズを小さくして、ハードディスクに入れて使えるという辞書を出していますが、これをEPWING型式に変換する「dessed」というソフトもありますので、かなり多くの電子辞書がBuckingham EB Player for CEで利用できる可能性があります。もっとも私の手元には、EPWING型式の「三省堂大辞林」、「研究社 英和和英中辞典」および「電子ブック版大辞林」があります。EPWING型式の方は以前、クラリスワークスというもとはマッキントッシュ用に作られたビジネスソフトのウィンドウズ版を購入した時に、当時マイクロソフトオフィスから乗り換えてもらうためでしょうか、おまけとして付いてきました。今となってはネットオークションなどでしか入手は難しいかも知れませんが、パソコン購入時のおまけソフトとか、捜せばそんな辞書データが見付かるかも知れません。わざわざお金を出して定価で買うよりも、ちょっと注意深くお店や中古ショップを見ながら、安く手に入ったところでPDAの辞書化を考えてもいいかなと思います。そういうやり方だとほとんどお金もかかりませんし、メリットがより大きくなるのではと思います。

 この他に、独自形式のものをさまざまなやり方でEPWING型式に変換してしまうやり方というのも存在します。手間はかかりますが、もともと今ある機械で安く導入しようと思って始めたことですので、手間をかけることだけはあるという感じはします。

 これは地域によっては入手が難しいかも知れませんが、株式会社ディアゴスティーニ・ジャパンが静岡県限定で出している、これで都合三度目の発売となる「新版PC Success(ピーシーサクセス)」という雑誌があります。2003年の9月から再々刊行を開始したのですが、その創刊号に付いてきた『学研マルチメディア辞典』は独自形式ながら一応EPWING型式への変換が可能です。ちなみに創刊号の値段は500円です。ただ、このシリーズは何と9号まで出たところで休刊になってしまいました(;_;)。というわけで、入手したいという方はできるだけ早く静岡県内で営業している本屋さん(有名なところでは、江崎書店・谷島屋書店・戸田書店など)に問い合わせることが必要になります。ちなみに見出し項目は11万2千で、各々の説明は短いながらも、写真・図版・音楽・音声・動画など(ちなみに、それらのデータはPDAに詰め込もうとするとかなり大きなデータになってしまいますので注意が必要)7千点も収録されています。これから述べるやり方でほぼテキストデータだけにして圧縮すると、驚くなかれ20MBそこそこまで小さくなります。

●導入の手順

 現在、私の手元にあるウィンドウズCEマシンは3台ありますが、そのすべてでBuckingham EB Player for CEが動きます。シグマリオン2は専用電池(リチウムイオン)で他のマシンと比べると高速で動き、カラー表示が可能。モバイルギアMR330は乾電池(単3二本)で長時間駆動し、専用品とは比べものにならない入力しやすいキーボードが付いています。E−65にはキーボードこそないものの、こちらも乾電池(単4二本)で動き、ジョグダイヤルで片手操作も可能です。画面は上2つよりも小さくなってしまいますが、手書き文字で入力することもでき、バックライトもありますからいつでもどこでもという用途にはいちばん近いかも知れません。

 データは同じコンパクトフラッシュに入れたものを使い回すことができますが、ここで問題となるのが辞書自体のファイルです。Buckingham EB Player for CEには辞書のファイルを圧縮するツールが付いていますが、それでも複数の辞書を入れるとなるとかなりのディスクスペースを必要とします。電子ブックのファイルはシングルCDサイズのため、大辞林全部で130MBくらいですが、EPWING型式の大辞林では300MB以上もあります。また研究社の英和・和英だと単語の発音付きといったこともあってか、そのままでは500MB以上あります。となると、せっかく安く辞書を入手したとしても、メモリカードの値段に泣いてしまうということにもなりかねません。そこで、PDAで利用するにあたり、使わないであろう音声ファイルなど、いらないものをカットしてからBuckingham EB Player for CEのツールで圧縮することにより、劇的に小さなサイズにできます。ちなみに、圧縮した結果両方で80MBくらいまで小さくできましたので、今は128MBのコンパクトフラッシュに入れています。今後辞書が増えるようなことになったらコンパクトフラッシュの買い替えも考えなければいけないでしょうが、とりあえず追加投資をせずに楽しむという目的は達せられたので満足しています。では、具体的に何を使ってどうするのか見ていきましょう。


(ここからは学研マルチメディア辞典をPDAで使うようにする場合です。DOSの知識がある方でEPWING型式や電子ブック型式の辞書を持っている方はこの部分を読み飛ばして、次項からお読み下さい)


 まず、スクリプト言語である「Ruby」をパソコンに導入しましょう。http://www.ruby-lang.org/ja/から使用マシンの環境に合わせたバージョンをダウンロードして下さい。わからないと諦めないで下さい。マルチメディア辞典のデータを変換するのに必要なのです。ダウンロードのファイルや、インストールのやり方なども上記リンクを調べればちゃんと書いてありますので、とにかく導入して下さい。

 次に、EPWING型式のファイルを自動作成してくれるソフト「EBStudio」を導入します。こちらは1000円のシェアウェアソフトですが、一応ダウンロードして来れば動くことは動きます。ただ、辞書の検索が前方一致しかできないようになってしまいます。後方一致の検索(たとえば『山脈』と入れると、辞書に載っているすべての『〇〇山脈』を検索してくれます)ができる辞書を作りたい場合は、しっかりシェアウェアフィーを払いましょう。

 そこまで準備ができたら、いよいよ変換にとりかかります。こちらのページにRubyを使った辞書データの変換スクリプトがアップされています。こう書くとわからない人は全然わからないでしょうが、つまりRubyというスクリプト言語を使って辞書データを変換するための手順を自動実行してくれる仕組みがあるということですね。ウィンドウズしか使ったことのない人には敷居の高いところがありますが、ここから頻繁に出てくるのがウィンドウズ以前に使われていたDOSというコンピュータを動かす仕組みです。DOSを使うためには私の使っているウィンドウズ2000の場合、「スタート」→「プログラム」→「アクセサリ」と開いていきその次にある「コマンドプロンプト」を起動します。すると、見慣れない黒い画面が出てきます。そこにさまざまな命令を英数字で打ち込んでいき、Rubyや後から出てくるプログラムを動かすのです。これらDOSについてわからない方は、やはりその説明ページをじっくり読んで理解はしないまでも動かし方くらいは覚えていて損はありません。かくいう私も根っからのマッキントッシュ使いですからほとんど知識はありません。参考までにこちらのページを紹介しておきます。で、コマンドプロンプトでの入力は、半角での入力はもちろんですが、スペースをしっかり空けるということと、大文字小文字も説明の通りにちゃんと入力することが大事です。ひとつ間違った文字を打ち込んだだけでもコンピュータは言うことを聞いてくれませんからその点にも注意しましょう。

 そうして無事にRubyを動かし、「学研 マルチメディア辞典」のファイルを出力したら、次にテキストでないマルチメディアのファイルを作業用ファイルにコピーし、「EBStudio」を起動します。こちらの方はワンタッチで変換ができますので説明は省きます。これでBuckingham EB Playerでそのまま見ることのできるEPWING型式のファイルが完成しました。

(ここからはEPWING型式や電子ブック形式のCD−ROMを使って作業します)

 このままでもパソコンで見るにはいいのですが、本来の目的はPDAでこの辞書を使うことでした。CD−ROMで提供される辞書というのは文章だけではなく、音や画像などさまざまなファイルが入っています。できるだけ辞書本体のサイズを小さくし、多くの辞書を持ち歩くためには思い切りが肝心です。テキストデータを中心に、サイズをけずってしまうことが重要です。Buckingham EB Playerに附属のBuckingham EB Compressorというソフトで圧縮は可能ですがもう一工夫してみましょう。

 検索の使い勝手を損なわない程度に辞書ファイルの大きさを小さくできるツールがフリーソフトとして誰でもダウンロードできます。EPWUTIL というユーティリティー集の中にある「SQUEEZE」というソフトがそれです。

 ただ、問題がないわけではありません。このソフトは前段で説明した通り、ウィンドウズで一般化したアイコンをクリックすれば動くソフトではなく、ウィンドウズの前身であるDOSで動くというちょっと素人には敷居が高いものです。しかし、元々マッキントッシュしか使っていなかった私ができたのですし、こうした苦労を乗り越えることによってほとんど元手がかからずPDAに辞書を載せることができるのですから、ソフトの説明文を見ながらチャレンジしてみてくださいね。ここまでで200MB以上あった辞書ファイルが60MBちょっとまでサイズを減らせます。

 あとはそうしてダイエットしたファイルをBuckingham EB Compressorを使って圧縮し、わかりやすい名前を付けてコンパクトフラッシュに移すだけです。正確な大きさは23.3MBです。動画ファイルも最初は入っていましたからそのまま比較はできないものの、元ファイルからすると10分の1以下になったことになります。128MBのコンパクトフラッシュは今では5千円弱で買えますが、その中に「大辞林」「研究社英和・和英中辞典」「学研 マルチメディア辞典」を入れても100MBくらいです。これで何とか使える辞書を複数持ち出すという目的を達成できました。最後にさまざまなファイルを利用可能にするためのリンク集をおまけに付けておきますから参考にしてみて下さい。

システムソフトの辞書をEPWING型式へ 


個人で辞書を作るためのツール集 


更に極めよ「EPWING/PDIC辞書」

 

●まとめ

 こうしてPDAに辞書を導入してみて思うことは、ようやくCD−ROMの辞書が有効活用できたということでした。使用可能なPDAのうち、いちばん大きいモバイルギアでさえ、辞書そのものの大きさより小さく、持ち運ぶのに苦になりません。目的の語句を引いても、周辺の言葉を見続けることもできますし、専用機の使い勝手とは違いますが、私にとっては十分です。また、辞書自体がコンパクトフラッシュの中に入っているので、状況に合わせて持っていく機械を変えることもできますから、常に辞書を持ち歩くというのか現実になりました。まあ、焦らずに安い辞書を捜しつつ、理想の辞書構成に近づけていきたいと思っています。

(PS)

 辞書というのは新しいからいいものとは限りません。紙の辞書を手本に編集しているということは、物理的に新しい言葉を載せる分だけ古い言葉が辞書から消えていくということにもなりかねません。というわけで、ネットオークションで安く買える辞書を落札しているのですが、広辞苑(第四版)や漢和辞典、マイペディア(簡易百科辞典)など、古いものですが入手することができました。これからいろいろと実用になることでしょう。データを小さくするためにはパソコン用の辞書よりも電子ブック版のものがよさそうですが、パソコンで使うことを考えると電子ブック版では少々物足りなくなるのが問題かも知れません。


 

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