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ハイビジョン特集 「世紀を刻んだ歌・何日君再来・アジアの歌姫が紡いだ愛の歌」

 この歌は、私自身の経験の中で、渡辺はま子さんのものを最初に聞きました。今回、いかにこの歌が数奇な運命に翻弄されてきたかということを追ったドキュメンタリーとして見ていたら、実に興味深い事が出てきたので書いておくことにします。

 元々この歌は日本の歌ではなく、中国の上海で作られた歌でした。当時の日本は大陸への憧れを国民に喚起するためか、大陸歌謡とでも言うべき中国に関する歌が流行していきます。日本で発売されたレコードは渡辺はま子さんもので、番組では周旋(実際は「旋」の字の左が「王へん」)・李香蘭・鄧麗君(テレサ・テン)の歌が流れていました。

 今回、渡辺はま子さんの長女の方に取材をし、中国で慰問をしている中、中国国民党へ向けたラジオ放送で「何日君再来」と「蘇州夜曲」を歌ったという当時の従軍手帳に書いた日記が見付かりました。その放送を聴いたと思われる中国の方の印象というのが実に興味深いものです。続き

 はま子さんの歌い方というのは、曲が進むにつれて感情が入っていき、最後の方にはかなり力が入った感じになっています。本来、「何日君再来」の「何」は発音の仕方でいうと低く出て上がる第二声なのですが、はま子さんの歌い方は出だしに力が入っているせいか、厳密に言うと同じ音でも高く出して低く消える第四声に聞こえなくはありません。中国語は発声によってあてる漢字が違い、この場合、あえて「君」のところに全く同じ発音をする「軍」という字をあて、「何」の読みで四声になる「賀」として、

「賀日軍再来」(日本軍が再び来ることを祝詞を述べて祝う)

 という意味にとったという中国の作家の方が番組内でのインタビューに答えていました。これが意図的に行なわれたものだとしたら、渡辺はま子さんは知っていたのかという事になると思うのですが、戦後のテレビ出演でもこの歌い方を変えることはありませんでしたので、こうした聞く側の受け取り方を存命中にはご存じなかったのだと思います。しかし、以前に渡辺はま子さんのレコードが当時としては大ヒットである5万枚以上も売れ、その歌い方を知っている軍関係者がいたであろう事を考えると、個人的にはかなり高い確立で、歌の文句が「何日君再来」ではなく、「賀日軍再来」と聞かれることを意図して歌わせた可能性はあるのではないかと思いますね。そういう事実がなかったとしても、結果としてそうした日本軍の行為が、この歌を後々までのろわれたように政治的に利用させるような状況を作り出したとも言えるわけです。

 今回、手元にある簡単な中国語辞書を片手に調べてみたのですが、たかが歌の文句の事だけで、何という印象の違う言葉のやりとりになってしまうのかと思います。今、中国だけでなく韓国ともかなり緊迫した関係になっていますが、しっかりしたコミュニケーションがとれれば起こらないいざこざというものも沢山あるのだろうなと思いますね。

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