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星新一 一〇〇一話をつくった人 最相葉月 著

 たまたまこの本が出ていることを新聞の書評で知り、何とか2日間かけて読み終えました。ファンの方々にとっては年を経るごとにどんどん老け込み、嫌味の多い付き合いづらい老人になっていくさまはちょっと耐えられないかも知れませんね。著者としてはここまでしてリアリズムを貫く必然性を確信していたのかも知れませんが、人物評伝として書くなら、目標とした1001話を書き終えた後にあった魂の孤独というくらいに抑えておいてもいいような感じを持ちました。それほど、晩年の星新一さんというのは読んでいて悲しくなるほどでしたから。続き

 私は、星新一さんの著作をすべて読んでいるわけではありませんが、いわゆる「ショート・ショート」のみでなく、早くから父親である星一氏に関する著作を読んでいました。星製薬という会社は知りませんでしたが、父親が明治の日本における国家としての体裁を整えていく時期に活躍し、多くの歴史上の人物と関わりを持っていたということに驚き、そうした作品群に興味を持ちました。多くの方はショート・ショートを一通り読んで卒業してしまう場合が多いかも知れませんが、私はそこから杉山茂丸氏(作家・夢野久作の父)が書いた「百魔」(講談社学術文庫刊行ですが現在は絶版)に出てくる星一氏に関する記述を星新一氏の「明治・父・アメリカ」と読み比べたりして、SFファンにとってはすこぶる評判の悪そうな、一連の伝記作品もかなり読んでいます。

 ただ、世間一般では星新一といえば、SFの、ショート・ショートのと人ということになりますから、本書では自然と日本のSFについての歴史とともに、星新一氏の生きざまが展開していくことになります。本書の中にはしきりに、多作とはいえそのほとんどがショート・ショートという形態のため、なかなか文学的に評価されないことのいらだちみたいなものを星新一氏が感じていたようなことが書かれていますが、結局はその作品の価値というのはこれから生きていく私たちが評価していくことになります。個人的には直木賞や芥川賞をもらうことよりも、いかに読み継がれて行くかというのが大事だと思いますので、こうした人物評伝の刊行によって、新たな読者の獲得になるのではないかと期待しています。

 本書を読んで不満に思った点は、星新一氏の仕事のうち、上に挙げた伝記小説についての評価なり、書くに至った経緯についてそれほど多く書き込まれていなかったことです。新潮文庫で読める「明治の人物誌」には父親の星一氏周辺の人物の伝記がまとめてありますが、どれも生き生きとその人物を伝えていて素晴らしいものです。特に朝鮮半島では大悪人として認知されている伊藤博文などは、父親が若い頃援助を受けたためちょっと肩入れしている感もありますが、それほどの悪人ではなく、むしろ伊藤博文を担ぎ出した人たちの方に問題があるのではないかと気付かせてくれます。そうした近代国家日本のありようは、とりも直さず日本の国家というものの抱える現代までの問題を内包しています。星新一氏はそこまで考えて一連の作品を書かれたわけではないとは思いますが、これから将来にわたってその輝きを失わないのは、むしろこうした伝記作品ではないかと思えますし、氏の作家活動の中でも重要なものではないかという認識をもう少し持って書かれていたらと思いますね。

 結局、ショート・ショートと他の小説を両立させるにはあまりにも時間が足りず、一連の伝記もそのさわりを残すのみとなってしまいましたが、むしろそうしたさわりの状態で、後世の人たちがいくらでも膨らませることのできる、さまざまな人物評伝を残してくれたと考えることもできます。これからも星新一という作家は読み継がれて行く作家だと思いますが、その人物論についてはまだ研究が始まったばかりですし、今回紹介したものが決定版ということもないでしょう。この出版によって、更なる星新一研究が進んでいくことを期待します。

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