竹中労さんの思い出(21)

 

 『黒旗水滸伝』も無事に発売され、大杉栄の77回忌も過ぎました。ところで、その大杉の墓が静岡市にあるということは皆さんご存じでしょうか。実は毎年この時期に墓前祭が行われています。といいつつ私は墓前祭には行かなかったのですが、その後の追悼集会で、大杉に関する著作のある鎌田慧氏の講演があるということで、どんなものでしょうと言うことで行ってきたのです。

 会場にはだいたい100名前後の人たちが来ていましたが、年齢の面からいうと私が一番若いほうの部類だということが、大杉の一般における知名度のなさを浮き彫りにさせる結果となりましたが、今後大杉栄の思想を継承していくということについて、『黒旗水滸伝』の出版がいくらかでも助けになってくれるといいなと思います。実は会場では、『黒旗水滸伝』と寺島珠雄さんの『南天堂』、更に井家上隆幸さんの『ここから始まる量書狂読』まで載っている皓星社さんのチラシをいただいたのですが、集会の中では何のインフォメーションもありませんでした。まあ、鎌田氏の本の内容とはちょっと違うからあからさまに紹介できなかったのかもしれませんが。

 で、取り立てて何の問題もなく集会は終了したのですが、翌日の新聞を見て驚きました。朝日新聞の静岡版では、なんと追悼集会に出席した人数が約200人となっていたのです。主催者や新聞社の方々は100人前後のことを約200人と表すのかなとマジに思いましたが。特にその時の鎌田氏の講演の中で、旧来の左翼運動で水増しした参加者を『発表』するようなことはやめたほうがいいのではないかという指摘受けていたのですが、まさかその講演の内容を聞いた人たちがこんなことをするとは。同じ静岡で生活をしている身としては、ホント恥ずかしいです。別に来た人数をそのまま発表すればいいのではないかと私は思うのですが、硬直した考えを持っている人たちには通じなかったみたいですね。

 別れの音楽会は9月20日の金曜日夕方から行われました。ここで書いているように、前日の台風襲来により、どの程度来るかという不安はありましたが、予想通りというか席には空席が目立っていたといいます。それを悪意を持ってとらえるか、こうした状況の元、よくたくさんの人たちが来てくれたと捉えるかは人それぞれでしょう。私個人としては、亡くなってから4カ月という時間経過でもこれだけの人数がよく集まったと思ったのですが。

 たまの演奏が終わって、第二部は沖縄・奄美からの歌い手さんが参加する『語らびや島うた・ふたたび』と銘打った琉球フェスティバル91となります。内容はCDが出ていますので興味のある方はお聞きいただきたいのですが、司会の照屋林助さん(りんけんバンドの照屋林賢さんのお父上)が私たちの予想に反して、ひどく地味な格好で神妙な面持ちをしていたのですね。実行委員会の意図としては、神妙に送るよりも音楽にのせてにぎやかに送り出したいという感じだったのですが、歌い手の皆さんはそういう気持ちにはなかなかなれなかったようです。竹中労という人間の死というものは、やはり重い現実だったのだという事実を私はそこで認識しなければなりませんでした。私個人について言えば、ずっと実行委員会で実務に追われていて、悲しみに浸る暇がなかったですから、その温度差というものは想像以上だったということなのでしょうね。

 進行は時間どおりでしたが、多少遅れ気味で、最後のカチャーシーで舞台にお客さんを呼び込んで踊りまくる段階になって会館との約束の時間にかかってしまいました。個人的には会館と喧嘩をしてもいいからもう少し続けてもいいかなと悪い考えが頭をよぎったのですが、さすがに周りの皆さんは大人で、それなりの時間に終了ということになりました。ただ、後片付けをする時間は相当切羽詰まっていて、最後まで舞台裏は戦場状態でしたが。

 その後、宿泊先の浅草まで車で戻り、すぐに関係者の二次会に出掛け、朝まで飲んでようやく開放されたかと思いつつホテルの部屋に戻ったところ、しばらくしてから今度は沖縄・奄美の出演者を羽田空港まで見送りに行くとの知らせ。やっとのことで支度をし、車を走らせてほうほうの体で皆さんを見送り、私にとっての長い一日がようやく終わるには、更に車で東京から静岡まで帰ってこなければなりませんでした。結局3日間で2時間しか寝なかったのでしょうか。こんな事をしたのはその時が最初でしたが、もう二度とはやりたくないですね。

 さて、長らくお読みいただいてきた方々には大変お待たせをしてきましたが、とりあえずこの項はここでおしまいということにします。今後私がどの程度書けるのかわかりませんけど、基本的には今後の情報を提供するというスタンスで皆さんとかかわることができればいいなと思っております。最後までおつきあいいただきまして、どうも有り難うございました。(2000.9.18)

(おわり)


 

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