ピアノでのフリー・ジャズというと、つい山下洋輔さんのことを思い出す人が多いでしょう。何度も紹介している明田川荘之さんもフリーをやりますが、ライブで見ているとエンターテインメント的要素があり、音楽は理解できなくてもそれなりに楽しめてしまうというところがあるように思います。しかし、原田さんはちょっと違います。 イヒャン 全一曲 原田依幸(ピアノ) 1988年9月16日
以前、友人と待ち合わせをするのにアケタの店を使ったことがあり、友人の方が先に来ているはずなのに何処にも姿が見えない。どうしたのかと思ったら、店員さんに呼び止められました。無言で割り箸の袋を渡され、そこに書いてあったのは「長いこと聴いていられないから帰る」と友人の自筆で書いてありました(^^;)。友人はジャズ好きとはいうものの、フリージャズの洗礼を受けたことがなく、たまたまその日のラインナップが原田依幸さんのトリオだったというわけ。私も途中から原田氏のピアノを生で聴く幸運に預かれましたが、演奏の中に没入していくようにピアノを弾く様は、聴いているこちらも演奏に引き込まれていく快感を覚えました。しかし、ジャズというものの懐の深さを理解しない人にとっては何の飾りもない原田さんの演奏は苦痛意外の何者でもなくなります。多くの奏者はその辺で何とか折り合いを付けて、つい聴く人の立場に立った演奏をしてしまうのかも知れません。でも、そんな妥協は一切なく、原田さんは弾きまくります。
私が、原田さんの演奏を聴いたのは、その時ともう一度あります。何と村の青年団が主催した、公民館が会場のジャズ・フェスティバル。このCDをコーディネートされたジャズ評論家の副島輝人氏が監修していて、多くのジャズマンが登場しました。たまたま原田さんの番になって、PAの調子が悪くなり、本人も納得がいかないまま演奏が終了しました。全員の演奏終了後、原田さんの一言。
「このままでは納得がいかないので、もう一度この町に来て、やらせてください」
観客はそれを聞いてやんやの大拍手。私はこの時、音楽家としての意地というものを原田さんに見ました。多くのミュージシャンが変節していく中で、変わらない情熱を燃やし続ける原田さんにもう一度拍手(^^)。
アンドリュー・シリル(ドラムス)
石渡明広(ギター、ベース)
東京新宿・旧 新宿ピットインでのライブ
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