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二人のマンガ家の対照的な本

 とりたてて意図して探していたわけではないのですが、ここ最近、二名の漫画家の作家活動に関するひどく対照的な本を手に入れました。その一つは「キャプテン」「プレイボール」「チャンプ」などが代表作として挙げられるちばあきおさんの没後10年を機に編まれた『ちばあきおのすべて』という、作品解説と周辺の人たちの声をまとめた週刊少年ジャンプ発行元が出した本(その後、ちばあきおさんのマンガ全集へと続く企画本のような感じ)。もう一冊は、昨年さまざまな賞を受けたことでも有名になった吾妻ひでおさんの『失踪日記』です。こちらの方は彼がメジャーでやっていた頃の秋田書店とは全く関係ないところから出ています。続き

 この二人の作家に共通していることといえば、どちらも創作活動に行き詰まり、自殺を試みたことです。ちばさんの方はそのまま生涯を閉じてしまったので、今となっては自殺まで至った自身の心のうちを私たちに直接知らせてくれることはできません。対して吾妻さんの方は、自殺に失敗した後ホームレス生活を送り、その後アルコール中毒で入院し、かなり際どいところまでご自身が明らかにしています。

 個人的には吾妻さんの作品を読んだ後にちばさんの本を読むと、かなりの違和感に襲われます。なぜ自殺にまで追い込まれたのかということについての記述が一切なく、わずかにその匂いを感じさせてくれるのは、同業者である永井豪さんの書かれているところのみだったからです。ちょっとその文のみ引用してみます。

(『ちばあきおのすべて』141ページ 永井豪「あきおさんの思い出は笑顔ばかり」より部分引用)

 深夜まで一緒に酒を飲んだ。マンガについて語り合っていたのだが、あきおチャンは最後にこう聞いてきた。「豪ちゃんはマンガ描くのが好きなんだね?」。私は「エッ?」と驚いた。私は、マンガ家というものは皆、マンガを描くのが好きだと信じ込んでいたので、「嫌いなの?」と聞き返した。「そりァーそうだよ、マンガ描くのってツライばかりだよ」あきおチャンは、笑って答えた。

(引用ここまで)

 ちばあきおさんのマンガは私も大好きですが、その作品は丹念に丹念に描かれている珠玉の作品であるにも関わらず、好きで描いていなかったというのはかなりのショックでした。まさにそこにちばあきおさんの悲劇があったのであろうと想像するのですが、残念な事に、ちばさんはそうしたことを語ることはできません。発作的に自殺に走ったとしたら、とても後々の事まで考える余裕などなかったのかも知れませんが、吾妻さんのあまりにもあっけらかんとした悲惨な生活暴露本を読むにつけ、やはり人間としては生きて心情を吐露することでしか、自殺に至るまでの苦悩から解放される術はないのではないかとしみじみ思います。

 同じように、子供・大人問わず自殺しようと思っている人たちについても、こうした事はあてはまることでしょう。死んでしまえば悩まなくてもいいかわりに、後からどんな事を言われようとは決して反論することはできません。この事一つとっても、私は自ら命を縮めたくはありませんし、人よりも長く生きようと思っています。できるならば、ちばあきおさんの苦悩が多くの人に理解される事を願ってやみません。

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