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万引の先にあるもの

 万引きに関するテレビニュースを見ていましたが、今は本でも一冊単位ではなく、気の弱そうな店員のいる時を狙って堂々と数十冊をもっていくような感じで悪質化しているようです。もちろん、窃盗という罪の大きさはありますが、こうした行為が日本中で広まることによって、私たちの便利な生活も変わらざるを得ないということに、当事者である万引きをする人たちは気付いていないようです。続き

 本屋さんが本を売ることで得る利益というのは、およそ定価の20パーセントといわれています。1000円の本を売って200円の利益ですが、様々な経費がかかっているわけで、実質上の利益はもっと下がります。ただ、日本の本屋さんというのはハリー・ポッターの会社とか、某有名出版社のように全て買い取りというのは少数で、一定期間売れないものは返品が可能です。ある程度仕入れのリスクをなくして、売れたものについてそのまま利益になるというシステムなのですが、ここで万引きが起こるとどうなるか。本屋さんでは出版社に対して、返品できないということになりますから、仮に1000円の本を万引きされたとしたら、同じ1000円の本を5冊売り上げてやっと万引き分をカバーできる(実際は別の経費もあるので全くのプラスマイナス0ではないのですが)ということになります。地代や人件費などを出し、利益を残すには一体どれくらいの本を売ればいいのか。ニュースで見た本屋さんでは、年間の被害額が1000万円を超えるとのことでしたから、この穴を埋めるには、1000円の本を5万冊も売らなければならないということで、ここまで書くと万引きが頻発する店舗は、もはや営業を続けていくことができないというのはだれが考えてもわかるでしょう。

 今の本屋さんは、昔よくあった小さな本屋さんが大型店の出品により姿を消しているという状況になっていますが、その大型書店が万引きに狙われています。地域からそうした大型店が姿を消すということになると、私たちはどこで本を買えばいいのでしょう。読みたいものがわかっている人ならばアマゾンでも何でも通販で買えばいいのでしょうが、雑誌類とか、すぐに読みたい情報系の本などは割と大きめの都市であってもなかなか手に入れられないような状況が来ないとも限りません。そうなったら、単に地域経済だけの問題ではなく、この国の文化の問題にもなるでしょう。インターネット上で全ての情報が読める時代が来ればいいですが、きちんと管理されたネット上の書店というのは店側が決めた分しか「立ち読み」ができないようになるでしょう。今の本屋さんというのは気軽に入店し、何も買わずに帰っても後めたさが少なく、商品をじっくりと吟味して買えるという特徴を持っています。それはお店とお客双方の善意によって支えられた形態であります。そのバランスが崩れた時、影響を受けるのは何も店側だけではないということをもっと多くの人に知ってもらいたいものですが。

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