日本の中国への外交姿勢が非難にさらされている昨今ですが、改めて日本がこれからどう中国という国と付き合っていくかを考えさせられます。全面降伏のようだと思われる方々も多いでしょうが、さしあたって中国指導部とのパイプを持つ人材がいないであろう今、日米安保を盾にしてアメリカにお願いすることしかできない政府であるからこそ、一気に中国の軍門に下るような判断をしたのでしょう。もっと強硬にと感じられる方もおられるかも知れませんが、日本という国を動かして移動することができない状況の中、これからもずっと隣国でいる中国にこれ以上強硬な行動を取られたら困る既得権益の受給者がたくさんいるということですね。
ただ、私たちは中国自体の体制の変化もきちんと把握する必要があります。日中間の国交については、以前は対日強硬派を抑えてくれる指導者が存在したのですが、今の中国ではそういう人たちは存在しません。チベットやウィグルなどの民族紛争であったり、都市と農村の格差など下手をすると国家動乱の火元となりかねないさまざまな国内問題を抱えている中、日本との対立を煽ることで巧みに国内の不満をそらすことをねらう勢力が大勢を占めているからです。中国は多民族国家であるにも関わらず、その富の多くを一部の人たちが独占しています。ここらへんは日本も中国も同じで、既得権益を維持したい人たちは何が何でもがむしゃらにやりますから、それを国外から崩そうとしてもどだい無理と言うものです。
作家の夢野久作の父親で、明治時代に政界の黒幕として暗躍した杉山茂丸がその弟に語ったとされる文章が「百魔」という本に残っています。中国大陸に対する意見として、現代にも通じる見解なのですが、あいにくこの「百魔」という本は以前講談社学術文庫で出たものの、絶版になっていておいそれとは手に入らない状態になっています。たまたまその部分を作家の星新一さんが杉山茂丸について書いた文章の中で引用されていますので、孫引きのような形になりますが紹介しようと思います。
(引用ここから)
広さ、人口、ともにシナ(注・日露戦争直後の話なので、この表現になっています)は大で、日本は小だ。文化においても、むこうが師で、こっちは弟子だ。こんなことを言うと意外に思うだろうが、シナは永久に滅びない強国で、日本はシナの動き方で、たちまち滅びる国である。外交も商売も、世界一うまい。そして独特の抵抗力を持っているから、戦っても勝ちつづけることはできない。
(引用ここまで)
その昔、竹中労さんのセミナーで杉山茂丸について題材にした時、竹中さんが引用したのもこの箇所だったことを思い出します。日中戦争の泥沼を振り返るまでもなく、華々しく中国に進出した日本企業が撤退を余儀なくされた例は今さら出すまでもないでしょう。これから日本政府の政策によって景気は悪くなる流れは変わらないでしょうから、少なくとも私たちは日々経済成長などしなくても幸せになれる道を模索した方がイライラしなくて済みます。既得権益にしがみつこうとしている人たちの口車にゆめぬめ乗らないようにしたいものですね。