親指シフト入力コラム(その1)

『早撃ちソフトに欠けているもの』

 

 今はもうなくなってしまいましたが(実は番組がリニューアルしただけだという話も(^^;))、TBSの古館伊智郎さんが司会をするスポーツ系番組で、パソコンの入力スピードを競う競技というのがありました。しかし、なぜか盛り上がることなく競技そのものが消えてしまいました。これは、入力のプロについてテレビ制作者が考えを及ばさなかったためで、彼らは私たちが考える以上のスピードで文章を打ちます。ここで『文章を打つ』と書きましたが、私たちがパソコンソフトとしてお馴染みの、いわゆる『早撃ちソフト』で練習したところで、素早く渡された原稿と同じものを作ることはできません。

 というのも、こうしたソフトでは日本語変換についての考察が全く欠けているからです。どんなに早く打ち込んだとしても、誤変換の嵐ではそれを直すことに時間がかかってしまいます。そうした弊害をなくすため、入力のプロは漢字をキーボードから直接入力している人だっています。そこまでしなくても、変換辞書に登録することによって長い文章を自分なりに記憶した短いキーワードで置き換えれば、正確にキーボードを打てる技術さえあれば、変換効率のすこぶる悪い日本語変換ソフトを操る『名人』に勝利することは可能です。

 今日見たテレビ(毎日放送制作のタモリさんの番組)でも、早撃ちソフトを使ってのキーボード早撃ち対決をやっていましたが、確かにスポーツとかゲーム感覚で観戦するにはおもしろいでしょうが、それが日本語入力に役に立つかというと、全然そうではないんですね。これからもチャンピオンに挑む(ローマ字入力限定の)入力猛者たちがテレビに登場するでしょうが、私は別に羨ましいとは思いません(^^;)。

 正直な話、入力そのものを仕事にしない人にとっては、自分の思考が追いつくほどの入力スピードで、間違えたとしてもすぐに訂正することができれば十分なのです。私が親指シフト入力にこだわるというのは、ローマ字入力に対してキー操作が少なくて済み、訂正も簡単であるということに尽きます。同じテレビでも、作家中上健二さんの奥様で、作家の紀和鏡氏のインタビュー番組があって、番組終わりのカットに彼女の出版した本と一緒にそれを書いたと思われる古ぼけたワープロ(パソコンではない)を見てニヤッとしました。そのワープロは明らかに富士通のもので、未だ現役の親指シフト入力のマシンだったのです。他人の書いたものを写すのではなく、自分で文章を作る用途での日本語入力では、まだまだ親指シフトは需要があるのだと思います。それが、『早撃ちソフト』のヒットによって、ローマ字入力全盛になっている情況というのは残念だし、もう少し選択の幅を持たせるべきだと思うのですが。先述のタモリさんの番組で、ゲームのようにソフトをクリアできるのを対決するのではなく、同時に話し言葉でも打ち込んでその早さを競うようなことをすれば、入力方式も関係ないし、真の実力が見られて面白いと思うのですが。(2002.11.12)

 


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