2004年8月のテレビ

 

ハイビジョン特集「モンテンルパの夜はふけて・渡辺はま子と戦犯たちの物語」昭和の歌姫・渡辺はま子と日本人戦犯たちの交流が生んだ奇跡の物語(NHKHV・2004.8.2)

 

 渡辺はま子さんとフィリピン・モンテンルパ刑務所に収容されていた戦犯との物語は、以前音楽のコーナーに書いたことがあります。今日はその物語を2時間弱のドキュメンタリーとしてまとめたものですが、物語の明細はこちらの方(2000年の話の中の「はま子さん安らかに」)をご参照下さい。

 戦争というものの恐ろしさというものは、先日来、中国で開催されているサッカーのアジアカップにおける日本に対する中国重慶の人たちの態度からも想像することができます。彼らはもはや半世紀前の事件について、その恨みを晴らすような行動をしているわけですが、50年と言えば実際に日本軍にひどいことをされた人たちが直接行動を起こしているわけではなく、あくまでテレビ画面で見た限りでは、その子や孫という世代の人たちが騒ぎを扇動しているような気がします。50年経っても100年経ってもこういう恨みは消えることがないのではと思います。お隣の韓国ではお互いにうまく行っているのではと思っている方も多いでしょうが、すべてにわたって丸く収まっているわけではなく、やはり全てを許してわかり合えるかというと、難しいと言わざるを得ません。

 今日本ではいざとなったら国連に協力して武力行使に加わった方がいいと言っている方もいらっしゃいますが、個人的にはそういう方が実際に現地まで行って、具体的に手を下して下さいと言いたいですね。というのも、モンテンルパ刑務所に収容された戦犯たち全てがむごたらしい戦争犯罪を起こしたのかということははっきりとはわかっていないからです。戦争犯罪を裁く軍事法廷だからこそ、戦勝国の思惑通り裁判が進み、無実を訴えた人の中でも絞首刑に処された方は多くいました。今の裁判ではどんな悪い奴でも弁護士が付き自分の主張を述べることができますが、そこは特殊な事情の中裁かれる法廷です。中には全く見に覚えもない罪状を付けられたまま死んで行った方もおられたでしょう。でも、自分が手を下さなくても、黙って見ているだけでもフィリピンの人たちにとっては許すべからずことなのでしょうし、何もしないと思っていても、結果的にどんな普通の人でも極限状態の中人を殺すことを強要されれば、自分が殺される前に目の前の相手を殺すことになるでしょう。そしてそれが際限ない恨みのループを生みます。それが戦争の恐ろしさなのです。

 「モンテンルパの夜は更けて」を作詞した長野県飯田市に今もご健在の代田銀太郎さんは、自分たちがいつ絞首刑を言い渡されるかわからない状態で独居房に押し込められているのに、日本では警察予備隊ができるということを知り、ひどく憤ったそうです。幸いにして、彼らは全員日本に帰ってこられました。今回の番組では、日本の戦後賠償と引きかえに彼らを使おうとしたフィリピン政府と交渉するため、賄賂でも何でもやって大統領に直訴するための手段を費したという証言が出ましたが、今まで言われていたような奇麗事だけでは奇跡というものは起きないというのは正直な感想です。もちろん、フィリピン大統領の英断の裏には、アメリカの圧力というものがあったはずですが、渡辺はま子さんが日本で大ヒットさせた「モンテンルパの夜は更けて」という歌がなかったら、多くの日本人はフィリピンに100人以上の戦犯が長い間(帰ってきたのが昭和28年ですから8年もフィリピンで死の恐怖と戦っていたことになります)異国の地で暮らしていることを知らなかったと思われます。歌がなければ世論を動かなかったでしょうし、彼らも日本に帰ってこられたかどうか。

 更に今回の番組では、渡辺はま子さんが亡くなる一週間前(くしくも、その日は12月25日で、慰問に行った当日と同じ日付)に、そのモンテンルパに慰問に行った時、その様子をテープレコーダーに残していたテープの音源を娘さんが聞かせたという話も聞くことができました。渡辺はま子さん自身、戦前は国策に協力するような歌を歌い、中国へ慰問に行き、それこそ今の日本サッカーチームが中国から非難を受ける元を作ってしまっています。このような経験というのは今の私たちにはできませんが、どんなに戦争がばかげていて、人の心を狂わし、将来を閉ざしてしまうものかということを認識するためのヒントにはなります。繰り返しになりますが、それでもなお、武力行使は必要だと思っていらっしゃる方は、行きたくない人に無理強いして戦場に連れ出すようなことはせずに、ご自身の手で自分の言論に責任を持っていただきたいものです。私はいくら腰抜けだと揶揄されたとしても、戦争に行くことはしないでしょう。まずは負の連鎖を断ち切ることこそ必要なのだと再認識させてくれた番組でありました。恐らくしばらくしたらBSか総合で再放送があると思いますので、お目に止まった方がおられましたらごらんいただくのも一興かと思います。


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