(左から、CUT Key VC-101 VC-201)
自分でもいつ書いたのか忘れてしまうほど前になりますが、パソコン上のテンキーを使った片手入力の方法であるチョイ入力を紹介したことがありました。この方法は、初期のウィンドウズ用に作られた日本語入力ソフト「松茸」に標準で付属している入力設定を使ったわけですが、現在のウィンドウズでは「松茸」そのものが使えず、特別にローマ字入力を設定しないと入力そのものができないという感じになってしまっています。個人的にはそれでもいいとは思っているのですが、できることならパソコンだけでなく各種PDAでも同じように使いたいものです。無理に片手で打つという状況というのは、むしろ外でPDAを使っている際に役に立つものであり、どうにかならないかと長い間思っていましたが、昨年(2006年)末から今年(2007年)にかけて、その問題を解決するハードウェアを購入しました。もはや開発も販売も終了してしまっていることから、最後の在庫処分ということで格安で売りに出されていたミサワホームの「CUT Key」を購入しました。ここでは、2種類出ているハードウェアの比較などとともに、パソコンだけでなく、USBホスト機能付きのW-ZERO3〔es〕での動作検証とともにレポートします。
パソコン用の外付けテンキーのような形状をしたCUT Keyについては、私の説明よりも販売元であるミサワホームの解説ページをごらんになった方がいいかと思います。片手で日本語キーボードのすべての作業ができるというこのキーボードは、キーが少ない分、両手よりもすらすら入力することが可能です。同じような思想を持った入力方法は上で挙げました「片手チョイ入力」のように多く存在しますが、こちらのCUT Keyが根本的に違うことは、ウィンドウズでは特別なドライバーソフトを必要とせず、日本語キーボードが使える状況ならまず問題なく使えてしまうということです。キー配列は違いますがローマ字入力なので汎用性もあります。これは、ミサワホームの設計思想の確かさによるところが大きく、このキーボードが使える可能性はまだまだあるのではないかと思います。
CUT Keyのハードは、ソフト的に実現するものや、パネルに張って利用するものをのぞくと、2つの製品があります。しっかりしたキーボードを持ち、大きめのテンキーといった感じのPS/2接続キーボード・VC-101と、USB接続を実現し、十字キーも付いたコンパクトタイプ・VC-201です。さしあたってどこでも持ち運ぶためにはコンパクトなものをということで、VC-201を手に入れました。このキーボードを使って、ウィルコムの出したPHS電話機・W-ZERO3〔es〕で使ってしまおうというのです。
W-ZERO3〔es〕の特徴として、各種USB機器を利用できるUSBホスト機能があります。USB接続のキーボードもローマ字入力でなら日本語を入力することができます。個人的には、パソコンを使わずにいつでもどこでも長文テキスト入力ができればいいと思っていたので、両手の使えるキーボードでコンパクトな折りたたみキーボードを利用していたのですが、これだとどうしても平らな面がないと入力作業そのものができないのが残念なところでした。しかし、片手打ちのできるCUT Keyが使えれば、十分なスペースがないところでもそこそこ入力ができることになります。W-ZERO3〔es〕でUSB機器を使うためには別売のホストケーブルが必要ですが、動作のために特別な作業は必要なく、ケーブルを繋ぐだけで準備完了です。
結論から言うと、あまりにも呆気なくキーボードを認識し、入力作業をすることができました。あまりにもあっけなくて、試したこちらがびっくりしてしまったくらいです。このキーボードはボタン一つで英字・かな・数字の入れ替えが可能なので、エクセルなど表計算ソフトでの入力作業にもかなり有効です。特別なドライバソフトを一切使わず、日本語キーボードとして認識するCUT Keyだからこそ、およそ動くことなど誰も確かめようとしなかったハードウェアを当り前のように使うことができるわけですね。日本語の長文を入力する場合、W-ZERO3〔es〕では標準で搭載されている日本語入力のATOKの予測変換が強力なので、ちょっとした定形文なら、多く出てくる候補を十字キーで選ぶだけでもそこそこの入力ができます。キーボードの作りとクリック感の甘さから、じっくりと腰を据えての入力効率には結びつかないと思いますが、それでも本体のキーボードよりはしっかりしているので、それほどストレスを感じずに済みます。もはや入手のためには数少ないショップの在庫をあたるしかないというのが残念ですが、W-ZERO3〔es〕で使えるめりっとはとてつもなく大きいわけですから、興味のある方は早目に手に入れた方がいいと思います。
めでたくCUT KeyがW-ZERO3〔es〕で動くことがわかったのですが、VC-201の不満点はコンパクトさを追求したために、タッチタイピングしにくいということがあります。タッチタイピングの点を考えれば、前機種のVC-101となるわけですが、こちらは標準でUSB接続をサポートしていません。メーカーページにはUSBアダプタを使えばウィンドウズでもマックでも使えるようになるとの説明がありますが、具体的な製品名には言及していません。ショップなどでは動作確認をしたアダプタを置いてあるところもありますが、キーボードとマウスを両方つながないと正しく認識しないという説明がありました。W-ZERO3〔es〕ではマウスは利用できないので、キーボードを使うためだけにマウスを繋ぐというのも変な話なので、近所のパーツショップにあった1ポートだけのPS/2→USB変換ケーブルを購入してみました。参考までにメーカーと型番は以下の通りです。
・サンワサプライ USB-PS2コンバーターケーブル USB-CVPS1
ちなみに、値段は千円強といったところです。こちらのケーブルを繋げて、改めてW-ZERO3〔es〕と繋いでみたところ、何とこちらも問題なく使えてしまいました。変換ケーブルを使った場合には相性の問題で動作が不安定になるという話もあるので、私の環境がそのまま他の方にもあてはまるものではないかも知れませんが、ともあれ、これで市販のCUT KeyはどちらもW-ZERO3〔es〕で使えてしまうということがわかったわけです。VC-101には、最初に説明した「片手チョイ入力」発案者、増田忠士さんの監修するタッチタイピングをするための速習法が付属しています。まずはキーボードがしっかりしているVC-101で入力のスピードを上げ、VC-201でもそこそこ使えるようにしていけば、普段の生活の中で、例えばコタツの中や寝床でもパソコン・PDAの動作が可能となる(ショートカットキーの操作も可能)CUT Keyの利用頻度は上がってくると思います。パソコンで使えるのは当り前としても、ほぼ携帯電話と変わらない大きさのW-ZERO3〔es〕でこうした入力方法が使えるというのはすごいことだと思います。
私のパソコンを使っての入力方法は、親指シフト(NICOLA配列)に漢字直接入力の一種である「超絶技巧入力」を合わせているということで、ローマ字入力は使っていません。ローマ字入力自体ができないということはないのですが、同じキーボードで違う入力方法を使い分けるというのはちょっと頭の中が混乱します。そういう意味では携帯電話のキーボードでの入力は全く両手での入力とは違うということで、入力自体に問題はないのですが、できるだけ快適にということで今回のCUT Keyでの入力に注目しました。CUT Key自体の技術は、両手を使ってタッチタイピングができない人への福祉利用ということで今後も生き残っていくでしょうが、それだけで終わらせてしまうには実に勿体無いハードウェアではないかと思います。キーボードのないウルトラモバイルPCなど、タッチペンによる入力でキーボードのないものをカバーするという思想はありますが、手書き認識が100パーセントの精度にはならないため、やはり入力のためのキーボードは欲しいものです。ハード自体にしっかりしたキーボードを搭載したテキスト入力のできるものが安定供給されれば嬉しいのですが、なぜか今の日本では、そうした筆記具のようなハードについては出ていません。可能性のあるものとしては電子辞書が進化すればというのがありますが、今のところそうした話は全く聞かないので今あるものでやりくりするということになると、コンパクトで全ての操作ができ、しかもハード的に動作するCUT Keyが消えてしまうのは実にもったいないし、何らかの形で復活することを願ってこの稿を閉じたいと思います。(2007.2.3)
ご意見、ご感想をお寄せください
mail@y-terada.com