2005年正月 0泊3日の旅

 

 まずはこの切符をごらん下さい。今ではかなり認知度があるかと思いますが、国内JR全線の普通列車5日間(5人で一日でも可)乗り放題のきっぷです。この切符を使って行けるところまで行ってやれと、無謀にも0泊3日九州への旅を行ないました。何せ思い立ったのが12月の下旬ということで、夜行列車の利用はほぼ絶望という状況の中、事前の予約が全くいらない行程で実行することになりました。なぜそこまでして不便な普通電車のみで遠方を目指すのか。それはある意味苦行に例えられるかも知れません。ただ一つ言えることは、何の目的も持たないで行こうとすればきつくなりますが、しっかりした目的を持った旅ならば、あまり途中の行程は苦にならないということです。今回は私がまだ訪れたことのない大分県・熊本県を中心に行程を作り、温泉をはさみながら一番の目的である豊後竹田市の『姫だるま』工房におじゃまするというものです。目的は見事に達成されまして、ここにこうして報告できることをうれしく思います。


一日目(1月1日)

 本来、18きっぷを使って遠方へ行く場合には、夜行普通列車・「ムーンライトながら」の利用が基本となります。何と言っても寝ている間に距離をかせぐことができるのが強みなのですが、特に正月やお盆の時期、指定席はすぐに売り切れてしまいます。席に限りがあるから当然なのですが、下り列車については一部小田原から自由席となるのでずっと立っていく覚悟があれば、強引に乗ることはできます。

 ただ今回は初詣後ということでもう少しゆっくりと始発を待って乗り込むことにしました。予定を立てる中で「どこにいつ着きたいか」を時刻表を使って逆引きしていき、九州にスムーズに入ることのできる愛媛県八幡浜港からのフェリー、1月2日の0時20分に乗れるかどうかが分かれ目です。調べた結果、始発からでも八幡浜駅に10時半頃に着けることがわかりました。というわけで、1月1日、静岡発の始発電車からのスタートとしました。

高松駅の連絡船うどん 前の日からの雪の影響もあってか、新幹線は遅れているようでしたが、在来線はうまくつながっていると思ったらいきなり雪が降り出してきた米原駅から出るはずの快速列車がなかなか出発しません。天候のせいと思いましたがそうではなく、先の駅で人身事故があったそうで、その現場検証に時間を取られているとのこと。列車との人身事故と聞いただけで良くない事を想像してしまいますが、結局30分以上も出発が遅れ、多くの人が携帯電話で連絡を取っています。私にしても同じことで、もしこの事故の影響で八幡浜駅までつながらなくなってしまったら、行程の変更を余儀なくされてしまいます。もっとも予約もなにもしていないのですから、そうなったらそうなったで、京都あたりで格安の宿でも取ってゆっくりしようかなとも考えたのですが、時間はなくなったものの何とかつなぐことができました。本来ならじっくり時間をかけて楽しみたかった姫路駅の駅そば(和風のだしなのですが、麺にかんすい入りの中華麺を使っている珍しい駅そば)も、一気に5分間で食べなければならず、味のコメントもできずじまいでした。姫路の仇は高松でとばかり、瀬戸大橋を渡り、高松駅構内で営業している写真の「連絡船うどん」(旧国鉄・宇高航路で営業していたうどん屋さん)のうどんをじっくり味わいました。今回の旅では駅そば・うどんの利用がどうしても多くなってしまったのですが、やはりだんとつの味であったことを報告しておきましょう。

 高松から観音寺、そして松山から八幡浜へと、かなり長い距離の移動になりましたが、ついうとうとしていたり、このように旅の記録を付けたりしていると、案外時間の経つのは早いものです。これが同行者ありでいろんな話をしながら行くことができれば更にいいのでしょうが、一人旅には一人旅なりの良さもあります。今回は暇潰しにとCDをMP3ファイルに変換して詰め込み、長時間流しっぱなしにしたのですが、最近は携帯ゲームも充実していますし、車内での暇潰しにはそれほど困らないと思うのですが。

 

二日目(1月2日) 

 八幡浜駅から八幡浜港へは歩いて25分くらいということで、雨もちょうどあがったこともあり、歩くことにしました。当然のことながらフェリー待合所の売店はこの時間閉まっていまして自動販売機の飲み物か、カップヌードルくらいしか入手できません。となるとここで利用したいのがコンビニです。港までの道には3つのコンビニが有り、そのうち道なりにあるのはサークルKとローソンの二店舗ですが、これは好みでいいでしょう。夜食というよりも早めの朝食と、いざという時のための食料・飲物などを仕入れ、待合所に向かいます。八幡浜から別府というフェリーの乗船料金は大人1770円で、0時20分発の便に限り、到着は牛前3時なのですが、車を利用していない人は5時まで船内にとどまることができます。2等船室はカーペットフロアになっていて、枕は用意されていて毛布は1枚100円でレンタルできます。電車の堅い座席で寝ることを考えるとかなり楽で、しかも眠れると思います。

別府駅前温泉 フェリー会社では更に、別府の提携温泉施設において割引券と乗船券を同時に出すと料金を引くサービスを行っています。これについては事前に割引券を用意し、その施設分だけ切り離しておくことが必要ですので注意して下さい。港から別府駅までは歩いて30分くらいかかるのですが、市営の温泉施設はほぼ6時半からなので、24時間営業である駅前の『駅前高等温泉』の高等湯を利用しました。ここは熱い湯とゆるい湯の二つの浴槽が有り、ぬるい湯の方に入っていれば、かなり長湯しても大丈夫です。とにかく冷えきった体をあたためて高等温泉を出た時にはそろそろあたりも明るくなっていて、時間ももう6時半近くになっていました。予定ではすぐに別府をあとにする予定だったのですが、せっかくなので市営の公衆浴場である『竹瓦温泉』へ行くことにしました。建物からして実に温泉情緒あふれる竹瓦温泉ですが、正月三が日は無料で開放しているとのこと。といっても、入浴料自体100円と安いのですが。でも、館内のロッカーは有料で、普通のロッカーも荷物用のロッカーも同じ100円なので、今回は入浴料がロッカー代に化けたということになりますね。

 ここは実に別府温泉らしく、かなり熱くて参りました。水でうめてもすぐに湯温は下がらず、何回を掛け湯をして体を慣らし、何とか肩まで浸かりましたがせいぜいもって2分といったところでしょうか。もっとも、最初のうちは3分以上入っていると湯あたりするとか。館内ロビーではストーブもたかれていましたが、これだけ熱い湯に入ると、体の中から温まって、温泉のありがたみを文字通り肌で感じることになります。ちょうど外に出たらまさに日の出の時で、一日遅れの日の出を見ることになったのでした。

 元々の計画では別府から石仏の有る臼杵へ行こうかと考えていたのですが、さすがにめんどうくさくなり、すぐに竹田の方へ向かおうと大分へまず向かうことにします。駅のコンビニで朝食を仕入れ、しっかりと食べてから竹田へと向かいました。豊後竹田駅の雰囲気はなかなかのもので、駅から滝が見られるのにまずびっくりしました。街中も散策のしがいがありそうな感じでしたが、今回の目的地はその豊後竹田駅から一つ熊本寄りの玉来という駅なので、今回は諦めることに。それにしてもこの辺の鉄道ダイヤはつくづく普通列車で移動しにくく作っているようで、無人駅である玉来に降りてしまうと次に来るのは3時間後というものすごさ。何はともあれ姫だるま工房を目指そうと、駅周辺をうろうろしていたら、道路沿いに看板を発見しました。その看板に沿って歩いていくと、インターネットで調べた通りの工房の看板を発見。本当に普通のお宅に離れの工房があるといった趣で、やはりここも正月休みらしく人のいる気配がありません。どうしようか一瞬迷いましたが、次の列車が来るまで3時間もあることですし、本宅の呼び鈴を鳴らすことにしました。

姫だるま工房 すると中から工房の方が出てこられ、お休みのところにも関わらずいろいろとお相手をしていただくことになりました。この姫だるまはお正月に使うものだそうで、近所の人からの注文をさばくため、年内はかなり遅くまで作業に没頭していたとのこと。1日に注文主にあらかた配り終わり、ようやく正月らしくのんびりしているとのことでしたが、そんなところに私がやってきてしまったわけで、何だか申し訳ない気持ちになりました。

 ただ、この工房には私と同じように直接来て買っていく方が多いのだそうで、本当に気さくにそういう方の話などをしているうちに、まさに他の人が工房を訪ねて来ましたので、申し訳ないような気持ちも多少薄らぐことになったのでした。ちょうどお昼をはさむ時間だったのですがお茶とおかしをご馳走していただき、いろいろな話をしていただきました。恐らく工房の方は同じ話を何度も何度もしているのだろうと思いますが、ここにたどり着くまでに一人旅ということもあってほとんど話らしいこともしなかったので、心身ともに実にリラックスできました。工房の方には本当に感謝しています。ちょうど手ごろな大きさのだるまがまだ一個だけあったのでそれを求めました。

 結局ほとんど列車の待ち時間である3時間近くも工房に居付いてしまったのですが、これを読んでいる方の中には、別の興味を持っている方もいるかと思います。工房の方との話についてはちょっとマニアックになる部分もありますので、稿を分けたいと思います。「水曜どうでしょう」と姫だるまの方をご覧下さい。

 列車は阿蘇をぬけて熊本に入ります。私は大分も熊本も初上陸であり、どんなところだろうかと熊本駅前を歩いてみましたが、残念ながら有名なラーメン店はすべて正月休みでした。駅前のラーメン屋さんが開いていたのでその雰囲気だけは味わってきましたが、何もかも満たす旅というのはやはり無理というものです。熊本駅は改札を出ずに吉野屋で食事ができる珍しい駅でした。地元の人にとってはありがたいのでしょうが、何か名物をと意気込んでくる人にとってはちょっと残念ではありますが。あとはそれこそ移動のみで、何とか博多にたどり着いたのが22時過ぎでした。日程の関係からこれ以上進むよりも博多にとどまり、始発に乗る必要があるため、できるだけ安く時間をつぶせるネットカフェで過ごすことにしました。バスターミナルと同じビルにあるネットカフェは会員登録不要で夜10時から5時間980円というナイトパックをやっていて、カプセルホテルやサウナと比べても格安で、私が利用したのはマッサージチェア付きの半個室で、インターネットをしつつ何とか無事に始発までの時間を過ごすことができました。

 

三日目(1月3日)

下関の「ふくめし」 4時過ぎにネットカフェを出て、4時53分発の始発に乗り込み、とりあえず下関で降りました。電車が着いた6時半過ぎに弁当屋さんが開いているという話だったので、名物駅弁である『ふくめし』をおみやげとして何としてでも手に入れたかったのでした。駅の改札を出たところにある弁当屋さんのブースでは、弁当の他にそば・うどんの営業もしていました。とりあえず一個1300円のふくめしを購入。この弁当にはなかなか全国の駅弁大会でもお目にかかることができないので、実に久しぶりの対面となりました。以前買った時はもう少し安かったように思うのですが、以前と比べると写真のように、カニの爪がのっていたりとかなりグレードアップしていることがわかりました。写真にあるように、フグの身のから揚げ、ふぐの身、ふぐの干物がのっていて、ごはん自体はふぐのたっぷりしみこんだ出汁で炊かれていて美味です。これで帰りの主な目的は達成されたも同じなので、あとはひたすら乗り継いで、静岡を目指します。新山口でうどんをすすり、そこから岡山まで直通という都合5時間という電車にはさすがに嫌気が差しかけましたが、この稿を書いていたおかげで何とかやり過ごすことができました。

 一応昼食を岡山でとり、あとはずっと電車に乗りっぱなしで、夕食を食べるための時間もほとんどありませんでした。そんな感じだったのですが、そのおかげでこの文章も家にたどり着く前に出来上がり、全くの無駄ではないということですかね。まだ18きっぷは2日分残っていますので、また改めて次の旅についても考えようかと思います。

 

 

 


 

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