「水曜どうでしょう」と姫だるま

  

だるま夫婦

 北海道テレビ『水曜どうでしょう』をご覧の方なら、豊後竹田市にある『姫だるま』というのはどういうものか、良くわかっていらっしゃると思います。私はもともと群馬の高崎にいたことがあるので、目を入れる高崎だるまというのは相当に身近な存在で、知り合いの工房に安く名入りのだるまを作ってもらったことがあります。ですから原付の旅東日本編で彼らが1月6日〜7日にだるま市のたつ少林山のだるまを荷台の後ろにくくりつけて走る姿には感銘を受けたものでした。

 ただ、いわゆる「姫だるま」というものについては全く知識がなく、番組を見るまでどんなものなのか全々知りませんでした。ですからあの顔であの姿の姫だるまが出てきた時はかなりのカルチャーショックで、やっぱり「欲しい」とすぐに思ってしまったのでした。

 ただ、そうは言っても簡単に出掛けるわけにも行かず、姫だるまへの想いはしばし封印していたのですが、水曜どうでしょうの番組復活特番でまた姫だるまが登場し、大きなサイズだけでなく日本の住宅事情を考えたサイズもあることを知りました。今回個人的に足を踏み入れていない都道府県に行こうと18きっぷの旅を計画した時、別府から上陸して熊本を目指す(ちなみに今まで大分・熊本が未到達で、残すは鹿児島のみになりました)という計画の中、どうしてもそこで接続が切れてしまう豊後竹田駅から「姫だるま」に連想が及んだ時、これはもういくしかないと腹をくくりました。おかげで計画していた臼杵の石仏観光がおじゃんになりましたが、それはまた次の機会にということですね。

 JRで姫だるま工房に行く場合、ガイドブックでは豊後竹田駅から一つ熊本寄りの無人駅である玉来駅で下車することになります。11時5分に着いて次の阿蘇・熊本方面行きが14時39分と3時間あまりないという接続の悪さですが、徒歩25分というのが工房までの距離ということでそれでも2時間あまりあります。念のためインターネットで地図をプリントアウトしてきたのですが、最初は方角がわからず駅を出て右の、反対方向に歩き出すところでした。それをかろうじて押しとどめたのが、番組内でも出てきた高架橋にある姫だるまの標識でした。本当は自分にとって全く知らない土地であるにもかかわらず、ビデオで原体験してしまっているので、途中の道も何か以前通ったことのある道のような気がして、全く迷うことはありませんでした。こういうことは同じ想いで由来のある場所を訪ねたことのある人が体験することでありましょうが、うろうろしなくて済む分、実に心強いものです。

 そんなこんなで歩いていたら、やはりビデオや写真などで原体験済みの風景が広がり、そうこうするうち姫だるまの看板に行き当たりました。普通の家の前に工房らしき建物が建っているのですが、そこには人のいる気配がありません。が、しかし、このまま帰ってもあと2時間あまり汽車は来ませんし、本宅の方の呼び鈴を押したところ反応がありました。姫だるまを見せて欲しいと言いますと、工房の後藤さんに、すぐに水曜どうでしょうを見てきたのでしょうと見破られてしまいました。というか、直接工房を訪ねてくるような人は水曜どうでしょうで紹介されるまでほとんどいなかったそうです。話をする前にやってきた場所となぜか血液型を聞かれました。何をするのかというと、工房の奥にある日本地図にチェックするためだとか。やはり静岡では以前から放送があるためか静岡市を中心に多くの人が私より前に訪ねてきているようでした。

 この姫だるまというのは竹田地方ではお正月に配るものということで、年内まで注文に応じるため連日深夜までの作業となりなかなか休めなかったそうですが、1日にあらかた注文分を配り終え、ようやくひと段落着いたところだったようです。しかも私が着いた時間はお昼前でしたからようやくゆっくり昼食を取ろうとしたところを邪魔したのかも知れず、かなり恐縮していたのですが、後藤さんの方では全くそんな心配はいらないとばかり、番組で関わった事や彼ら出演者・ディレクターとの縁について、そして数多くのここまでやってきてくれるファンの方々についてとめどなくお話してくれるのでした。水曜どうでしょうを見て来てくれた方は信用できるとしきりにおっしゃっていましたが、私が考えるに後藤さんたちのかもし出すいい雰囲気に、多くのどうでしょうファンがいい意味で感化されているのではないかと思いました。ちなみに、今年2005年に訪れたのは私が最初だったらしいのですが、しばらく話をしていたら何と原付スクーターに乗った大学生二人組がやってきました。このようにしてどんどん人が訪れ、そこでコーヒーとおせんべい、そしてなぜかラ・フランスを出していただきました。実はそういったものも訪れたファンの方が持ってきてくれるのだそうで、うまいぐあいに回転し、新たな流れというものが生れつつある現場であるなあと実感した次第です。

 本家HTBでは今年、大々的にどうでしょう祭りを行なうことを検討しているのですが、豊後竹田ではもうすでに、11月後半のお祭りの際に有志が集まり、ちょっとしたイベントをうまく工房が中心になるようにして行なっているとのこと。そういった同志というのは全く面識がなくても、同じように番組を見ているという共通認識があるものですから、割とすぐに打ち解けてしまうそうですが、ここらへんはインターネットのオフラインと似たようなところがあります。というか、多くの人がインターネットで情報のやり取りをしているのですから、自然とそういう流れになるのも当り前なのかなという感じもしますが。

 長くいることでご迷惑になることはわかっていても、まだまだお話を聞いていたかったのですがいかんせん帰りの汽車の時刻があるので退散させていただきましたが、やはり車で来た方が良かったと思いました。さすがに冬は雪道の運転に自信がありませんので、夏あたりがベストではないかと思います。

 ひとくちにどうでしょうのファンといっても実にさまざまな方がいます。何よりも先にどうでしょう出演者・スタッフの事を想い、ついには北海道へ移住してしまった方もいらっしゃるそうですが、私の場合はそこまでのファンというわけではありません。元々旅が好きでいろんなところに行っていたものの、年とともに出掛けるのもおっくうになってきた時に出会ったのがこの番組だったので、多少は影響されつつも止まっていた四国八十八ヶ所巡りを復活させたり、今回のような旅に出るようになりました。そういった意味では番組に感謝していますし、番組を通じて工房の方とのコミュニケーションを取れたことにも不思議な縁というものを感じます。ある意味醒めつつもかろうじて熱い想いを求めて踏みとどまっているような感じなのですが、今回出会った大学生などは年末からスクーターの後ろにテントを積んでここまで野宿しながらやってきたそうで、私とは比べものにならないくらいの熱さがあります。はたから見ると単に番組に出たからとやってくるなんて、なんて馬鹿なことをと思う人がいるかも知れません。しかし、それがどんな目的であっても、テレビの中で起こっている事を自分で確かめに行くというのは無駄なことではないと思います。現地に辿り着くまでにいわゆる「予定外」の事も起こるでしょうし、着いたところで、テレビはすべて真実を映しているわけではありません。どうしてもテレビの枠の中では伝え切れないことも多くあります。現実とテレビとの温度差がわかってくるにつれ、冷静にテレビの中で起こっている事を見ることができるようになるでしょうし、いかにテレビに騙されないかということは現在の日本に生きる私たちにとっての課題でもあるのですから。ちなみに、後藤さんいわく、テレビカメラの回っていない所でもあの方たちのテンションはほとんど変わらないそうです。ただ、どうでしょうスタッフは、元々テレビの内と外をぶち壊すようなトライをされてきたのでしょうし、先日見たインプレステレビでのディレクター陣のインタビューでもそんなことをおっしゃっていましたから、いわゆる確信犯的な行動のようにも見えますが。ともあれ、水曜どうでしょうを楽しんで見ている人の潜在意識には、テレビで演じられるあたかも真実のような嘘に辟易しているような感情があるからこそ、これだけの支持が有るのではないかと私はにらんでいるのですが。

 工房を出て駅までの道すがら、自転車に乗った小学生二人とすれ違いました。そういうこと自体よくある光景ですが、驚いたのはその小学生二人がごく自然に「こんにちは」と挨拶してきたことでした。ここは登山道なのかと一瞬思いましたけど、すぐにあいさつを返しました。見知らぬ旅行者というのはある意味小さい子には恐怖の対象かも知れず、素直な振るまいにやはりあの工房だけでなく、この地域自体が外に開かれていて縁を結びやすいのだなと思った次第です。これを読んで行ってみたいと思った方は訪れて損はありません。行け!! と強制はできませんが、もし行けるだけの暇と時間があるのなら、訪れて損はありません。ただ、事前に連絡をして仕事の忙しくない時間を聞いたりという配慮は必要だと思います。詳しい連絡先についてはここで書くのは気がひけるので、インターネットを駆使して調べてみてください。

 


 

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