語句コラム【い】

 

 

★0001.新語としての「E」(2004.6.30)

 

 日本語表記で表わすと、「イー」(45ページ)となるアルファベットの「E・e」も、第五版から新語として加わりました。もちろんこれは『e−mail』『Eメール』などのように使われ、単なるメールではない「電子メール」のことを指します。

 辞書の帯にはこの「e」を使った「eコマース」(46ページ)が新掲載語の代表のように載っていますが、こうしたインターネット関係用語というのはまだまだ一般に定着しているとは言えず、次の改定の際どうなっているのかというのがむしろ興味深かったりします。

 さて、このEですが、『電子の。インターネットでの。』と紹介されています。電子(858ページ)というのは、陽子の周りを回るエレクトロンというイメージがありますが、「電子メール」という時の「電子」はそちらの意味ではありません。『電子工学を応用したこと』という二番目の意味で使われているのですが、では「電子工学」とは何ということになるから面白いものです。電子工学とは、『半導体(トランジスタ・IC・LSIなど)を応用する技術の学問。ラジオ・テレビ・電子計算機(コンピューター)などに応用する』という説明があります。つまり電子工学を利用したパソコンでやりとりするメールだから「電子メール」になるというわけ。インターネットは元々アメリカからやってきたものですから、Eメールを電子メールと訳したのはすこぶる当然のことですが、同じく電子工学を応用したカメラを電子カメラと呼ぶかというと、そうではないのですね。デジカメ(844ページ)は日本の企業が命名したもので、正式名称のデジタルカメラ(845ページ)は、もう世界標準になっているような気がします。更に今ではパソコンを使っていない人にも認知されてきていますし、このコラムの題材としても更なるインターネット用語が出てくることになるでしょう。

 

 

★0002.例文による「思い込み」(2004.7.2)

 

 辞書に載ることばというのは、多くが新語の類であるのでしょうが、「言い置く」「言い送る」「言い落とす」(46ページ)は、第五版になって初めて登場した言葉です。「言い置く」などは、古くから使われていたということを考えますと、一度死んだ言葉が生きかえったというような感じになるのでしょうか。現状では第三版より古いものが手元にないので、この件については改めて調べてみようと思っています。

 こんなことを書くのもかなり好い加減ではないかと自分でも思いますが、そこで同じページにある「好い加減」(46ページ)について、ちょっと書いておきます。

 「いいかげん」と書くのと「好い加減」と書くのとでは、私個人としてはかなり印象が違ってしまうのですが、「いいかげん」だと否定的・突っぱねた言い方に感じ、「好い加減」では肯定的・穏やかな言い方というような差があるように思います。その辺についてどう説明しているかというと、後者の方の意味が載っていないのではないかと不覚にも思ってしまいました。で、辞書としての性質の違う「新明解国語辞典第四版」を取り出してみたら、なぜそんな風に思ったのか納得した次第。

 前者の方の意味は、形容動詞の方で説明されている、二番目の『すじみちがとおらず、でたらめなようす』や三番目にある『徹底(テッテイ)しないようす。「いいかげんなやり方』で違和感がありませんが、一番目の意味として『ほどよいところ。「冗談もいいかげんにしろ」』と書いてあるのをつい例文に目が行ってしまったのですね。

 新明解の方は「冗談も…」のような例文の前に「好い加減の湯」「好い加減のを一つください」というような例文が載っているので、同じ意味でも使い方でかなり感じ方が違ってくるのだと改めて納得しました。ちなみに、第三版では例文が省かれているので、私にとってはそちらの方がわかりやすくもあったのですけど。

 ただ、漢字で書くのとひらがなで書くのとで、やはり印象が変わってしまう言葉であるのだという思いは益々強くなりました。こういうところはアルファベットと違って、文字だけで読む人に与える印象が違ってくる、漢字の特徴と言えるでしょう。

 

★0003.「いい年」とは? (2004.7.6)

 

 漢字で書くと「好い年」(47ページ)となるこの言葉、第五版からの言葉ですが、果たしてどれくらいの年のことを言うのでしょう。ちなみに意味としては二つあって、一つが『かなりの年齢。「もう好い年でしょう」』、もう一つが『相応の分別ができていい年齢。「好い年をしてみっともない」〔あざけって言う〕』とあります。

 このうち、二番目の意味については、「いい年をした大人が……」というように使うこともあり、使われる年齢についてはどの年代かということは決まっていないながらも、ある年齢層における一般的な行動から外れているようなふるまいをした時に使われるような感じで私は捉えています。ですからこの場合は、その言葉の前後に応じて(例えば、小学生が赤ちゃんのようにお母さんにまとわりつくとかいう場合、お母さんの小言の種として使われたり)変わっていくということになるでしょう。

 問題なのは最初の方の意味で使われる場合です。これは、はっきり言ってしまうと二通りの意味があるように思います。まず、辞書の説明通りに考えると、「年寄り」(891ページ)だと回りから認識されている年齢ということになります。ただ、果たしてこれがどれくらいの年齢のことを言うのか、さすがにそこまでは辞書にも書いてありません。ちなみに「年寄り」は『年をとった人。老人。年をとったこと。老年。』と説明してあり、これ以上説明はできないのかと思いますが、こうして考えていくうちに、ひと昔前はもう老人と呼ばれていた年齢層の人々が、今はそうでもないことが多いことに気が付くことになります。

 次に、例文の「もう好い年でしょう」と使う場合がどんな時にあるのか考えていくと、辞書に載っていない『結婚適齢期』的な意味も見付けることができます。これなどは少子化が進み、晩婚化が進む現代特有の言い回しなのかも知れませんが、恐らくこの意味でこの言葉が使われていく場面が増えていくような気もします。ライフスタイルの変化が言葉のニュアンスすら変えてしまう、いい見本のような言葉です。

 

★0004.スポーツ用語から (2004.7.15)

 

 「イエロー」(49ページ)という言葉自体は前の版にも載っていますが、「イエローカード」(49ページ)というのは第五版が初になります。それまではプロスポーツといってまず最初に出てくるのがプロ野球で、あとはプロレスぐらいだったのが、Jリーグのサッカーが出てきて、言葉についてもかなり新しいものも出てきたような気がします。

 第五版の説明は『〔サッカーで〕悪質な反則などをした選手に、審判(シンパン)が警告するときに示す黄色いカード』と、あくまでサッカーの試合内でのみ使う言葉として紹介しています。

 しかし、同じように第五版から登場した「レッドカード」(1401ページ)とともに、日常生活の中にも根づいてきた感じもします。例えば「飲酒運転、覚せい剤にレッドカード」などのように、単に口頭注意だけで済むものは「イエローカード」でも、洒落にならないほどとんでもない事には「レッドカード」を使うことはごく一般的になっています。

 あと、このカードのシステムというのは今、サッカーだけに限定されるということでもなく、試合を審判がコントロールする必要があるような競技では、同じような意味で、そのままイエローカード、レッドカードを使う場合もあります。サッカーというのはそれだけ多くの国で行われ、世界的影響力が強いということも言葉の浸透から伺えたりするのが面白いですね。これからプロ野球もどうなるかわからない状況の中、次回の改定ではサッカー用語が更に増えるような気もします。

 


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