I do,You do あなたらしく、わたしらしく
 (太田裕美)

I do,You do あなたらしく、わたしらしく

 

 もし私がインターネットをやっていなかったら、このCDに出会うのがもう少し遅れたか、はたまた出会えないまま無念さを募らせていたかもしれません。1983年録音のこの作品は、80年代のポップスアルバムの中でも群を抜いていると思うのですが、ヒットもせず(^^;)、再発もされず、ようやく2001年5月に初のCD化されました。太田裕美さんといえば、おしとやかな女性アイドルというイメージがあるのですが、このジャケットの写真をみるとおよそそんなイメージとはかけ離れています。そこら辺からまず語りたいと思うのですが。

 現在の太田裕美さんはアーティスティックなお母さんという感じで(^^;)、ゆったりとした音楽活動をしていらっしゃいますが、もともとは沢田研二さんが好きで、あのスクールメイツに入団したのがデビューのきっかけとか。所属プロダクションはかの渡辺プロ(通称ナベプロ(^^;))で、プロダクションのイメージに沿って人気を博していきます。『さらばシベリア鉄道』や、『木綿のハンカチーフ』というのはカラオケにもありますからご存じの方も多いと思います。1983年というのはその人気も落ち着いてきたというか、シングルを出しても以前のように売れるという感じではなくなってきた時期だったのではないでしょうか。こういう時期というのは焦る人は焦ると思うのですが、逆に今までの実績があるので自分で好きなことをやるチャンスでもあります。上のジャケットの写真を見ていただくとわかると思いますが、かなりはじけてますよね(^^;)。このアルバムの副題である『あなたらしく、わたしらしく』ということでもわかるとおり、かなり自分で好きなことをやったのではないかという感じがまずします。ちなみにジャケットのバックに置いてある妙なセットは、現在テレビ朝日系で放送されている『タモリ倶楽部』の中の「空耳アワー」に出演されている安斎肇さんの仕事だそうです(^^)。

 さて、肝心の音についてですが、おそらくこの企画に関わったスタッフは従来のスタッフとは違ってかなりポップなアップテンポの曲が増えています。おしとやかで優しいイメージから、少年のようにはじけるイメージへの変換。それはプロデューサーの福岡智彦氏の手腕といえるのかもしれませんが、実は太田裕美さんはこれらの仕事のあと、福岡氏と結婚したのですね(^^)。それだけ充実した仕事であったことがうかがえるのですが、やはり特筆すべきは「チャクラ」という小川美潮さんのいたバンドの板倉文さんの参加でしょう。テクノタッチのバンドであり、業界内では知る人ぞ知るバンドであるチャクラですが、なんとこのバンドもナベプロ所属だったのでした(^^;)。もっとも、新しい音というのは総じてプロダクションのお偉いさんに対する受けはよくなかったようで、それほど売り出してはもらえなかったみたいですが。音楽的に評価が高い当時としては先端の音と、多少は人気にかげりが見えたとしても安定した歌唱力と大衆に認知されたアイドル歌手、更にもう一つの融合がありました。アルバム収録で10曲中8曲の詞を提供しているのが山本みき子氏。こういってもわからないでしょうが、この方は銀色夏生さんと同一人物です。

 私はそういう経緯を知って、別に太田さんのファンでもなかったのですがレコード(この当時はまだCDの出始めだった)を借りました(^^)。さすがに太田さんのファンの間では賛否両論あったみたいで、アルバムのセールス自体もそれほど行かなかったのではないでしょうか。しかし、当時から業界内では結構話題の新作だったのですが。

 その後、太田さんは結婚を機に一時活動を中断。その後、彼女の作品は次第に復刻されていったのですが、なぜだかこの作品だけはいつまで経ってもCDになりませんでした。レコードからダビングしたカセットテープもダメになり、どうにかしてもう一度聞きたいと長年思いつつ中古レコード店の棚をのぞく日が続きましたが、全然見つかりませんでした(;_;)。しかし18年も放っておくなんざ、プロダクションとして許されることではありません。やはり竹中労さんが書くように、最低のプロダクションだと積年の恨みを込めて書いてしまいますが(^^;)、それくらい私が惚れ込んだ作品ということでご理解いただければ幸いです。

 現在聞いてみると、ところどころ時代を感じさせるアレンジがあるものの、今聞いても十分楽しめる楽しい作品であります。本当は5月に出ていたのですが、昨日になってインターネット検索をして初めて復刻されていることがわかりました。まさにインターネット様々という気がします。(2001.8.17)

★データ/ソニーミュージックエンタテインメント SRCL5091

1. 満月の夜 君んちへ行ったよ
(作詞:山本みき子/作曲:太田裕美/編曲:大村雅朗)

2. 葉桜のハイウェイ
(作詞:山本みき子/作曲:板倉文/編曲:大村雅朗)

3.お墓通りあたり
(作詞:山本みき子/作曲:太田裕美/編曲:大村雅朗)

4.ガラスの週末
(作詞:山本みき子/作曲:板倉文/編曲:大村雅朗)

5.こ・こ・に・い・る・よ
(作詞:山本みき子/作曲:太田裕美/編曲:大村雅朗)

6.移り気なマイ・ボーイ
(作詞:山本みき子/作曲:太田裕美/編曲:大村雅朗)

7.パスしな!
(作詞:山本みき子/作曲:川島UG/編曲:バナナ)

8.ロンリィ・ピーポーIII
(作詞:下田逸郎/作曲:太田裕美/編曲:板倉文)

9.ロンリィ・ピーポーII
(作詞:下田逸郎/作曲:岡本一生・亀井登志夫/編曲:大村雅朗)

10.33回転のパーティー
(作詞:山本みき子/作曲:板倉文/編曲:板倉文)

 


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