99年2月
- ステージドア 浅野梅若(NHK教育・99.2.28)
伊奈かっぺいがインタビューアーとして秋田民謡の浅野梅若さんとの対談。八十八歳の米寿とは思えないかくしゃくとした様子に、まずびっくりしました。このホームページでも紹介している竹中労さんがミュージックマガジンでインタビューしたのが15年前ですから(単行本『にっぽん情哥行』(ミュージックマガジン社)に収録)。しかし、その中でのインタビュー内容と比べると、NHK化したおとなしいものになっていたのは仕方がないことなのでしょうね。
この番組のコンセプトは地方における東京都の対比というか、伊奈かっぺいさんも東京に活動の根拠を移さず活動していますし、現在いる19歳と21歳の内弟子(ともに女性)との活動を紹介しながら、秋田を中心にNHKののど自慢でチャンピオンを排出した梅若さんの活動をだぶらせて伝えようとしているという感じでした。
弟子は全部二代目であるので、梅若の名前は一代限りだという話、メロディとリズムを真似するだけではダメだという話、日本の民謡がダメになっていった理由をさらりと言ってしまうのも、痛快ではありました。
テレビの良さは活字になった文章とは違って、実際の歌や音色を聴きながら話を聞けるということでしょうね。しかし、これだけの名人と言うことになると、どんなものを聴かせてもらえるかが勝負になるわけで、番組のコンセプトが勝負になってくるわけです。まあ、このコンセプトでキャスティングされた伊奈かっぺいさんにそこまで望むことは酷でしかありませんが、できることなら地方局のレベルでちゃんとした『うたっこ』(民謡のこと)を梅若さんにやっていただきたいものです。どっちにしても30分枠の番組じゃ無理でしょうが(^^)。
- 真似して真似され 二人旅(NHK衛星第二・99.2.18)
物まねをする人と、物まねをされた本人とが一緒になって旅をするというなかなか興味深い企画の番組でした。構成は二部に分かれていて、最初が元阪神タイガースの掛布雅之さんとタレントの松村邦洋さん、後半は映画監督の大島渚さんとタレントの松尾貴史さんという組み合わせ。特に何の思想性もない、掛布・松村コンビが面白かったですね。千葉県内を回っていて、二人の素顔というのが実によく出ているような気がしました。松村さんによるナレーションも掛布さんへの愛に溢れていて、実に気持ちがよかった。ただ、後半の大島・松尾コンビがねえ(^^;)。
こちらの方は京都の冬を巡っていったのですが、最初から松尾さんが大島監督に飲まれているので、普段の面白さの半分も出ない。大島監督にモノマネ論なんか全面展開されてもねえ。また、革命の話を好んでしていたのですが、ちょっと番組の流れからして唐突で、見ている人もちょっと困ったのではないかしらん。やはり、三年前に倒れて、未だリハビリを続けているということで本人の威圧感と、そうした状況に置ける気の使い方で、腫れ物に触るようになってしまったのでしょうね。できれば、これはこれで一回シリーズとして作って欲しかった。まあ、そうは言っても、なかなか面白い番組でした。しばらくしたら、総合テレビで再放送があると思うので、機会があったら見てください。
- 踊る! さんま御殿(日本テレビ・99.2.16)
この番組について書くのは初めてだったのか記憶がないので、二度取り上げているようだったらすみませんm(_
_)m。
とにかく、うるさい番組であります。まともに見たことないけどTBSの『ここがヘンだよ日本人』と双璧という感じもなきにしもあらず。でも、これほど日本らしい番組もないんですよね。
そもそも、日本の笑いというのは、前回書きました外国のコメディと違って喋りの笑いなのですね。コメディというものは狂言まで下れるのでしょうが、あれからしてやかましいですからね。座興として即興で行われた狂言を仁輪加狂言というらしいですが、これが漫才のルーツという話もあるくらいです。また、座興といえば歌ですが、地方に伝わる民謡の多くは春歌で(^^;)、下ネタ満載の歌詞を作って一同大いに盛り上がっていたそう。テレビの発達によってこうした民謡でも猥褻な歌詞のある部分はカットされてしまいましたが、笑いの心意気というものは失われてはいない。だから、ついうるさいと思いながら大勢の話の輪の中にいるような錯覚を覚えるこんな番組が出てくるのでしょう。
当然、あれだけの人を仕切る明石家さんまさんがいなくてはちょっと成り立たないでしょう。しかし、さんまさんもしぶといですね。ひょうきん族の時のお相手だった北野武さんが映画監督としてお笑いの世界から脱皮しかけているのに、相変わらずコテコテの笑いを保っているのですから。まあ、東京で活躍する芸人というのは、笑いを一段低いものとして見ているのでしょうか。先日のプロボクシング世界タイトルマッチで畑山選手のセコンドに片岡鶴太郎氏がついているのを見ましたが、あの人もアツアツのおでんを食べている頃が一番面白かったのに(^^)。そんな中だからこそ、関西を中心にしたお笑いが天下を取ったのでしょうし、さんまさんの地位も揺るがないのでしょう。
- 金曜スペシャル「コメディの逆襲」(NHK衛星第二・99.2.12)
海外の良質のコメディが見られるのではと、期待していたのに(^^;)。海外といっても、フランスにベルギーと、ハンガリーという限られた国だったのですね。しかも、フランスのコメディというのが笑えないんですよ。まあ、これは我々がアメリカンジョークを笑えない類の問題かも知れませんが、何かインテリ臭い、頭の中で物語を作っているような感じが随所に見られるのですね。まあ、選んでくる方でつまらないものばかりを持ってきたのかも知れませんから断言はできませんが。ここを読んでいる人の中で、面白いフランスのコメディを知っているという人がいたら、ご一報願います。
次にハンガリー、ドタバタの定番と言うことで食傷気味になる。あと訳の分からないフランケンシュタインものがあった。ヨーロッパのモチーフというのは定番化しているのでしょうかね。いつ作られたものかわからないので、これも断言できませんが。
三国の中で一番面白かったのがベルギーのフィルム。計算されたおかしさというものがあるが、大笑いするところまでには行かない。やはり、日本でしゃべくりの笑いを見慣れているせいでしょうか。でも、そうでもない気もするのですが。
ちなみに、番組はいとうせいこうが司会でゲストが大竹まこと、みうらじゅん、デーブ・スペクターに嘉門洋子(ここだけ自信なし(^^;))と、いとうせいこうをタモリの司会に変えたら、全くタモリ倶楽部のキャスティングであって、彼らの掛け合いの方がよっぽど面白く、これで救われたかなと思っていたのですが(^^;)。
そのままタモリ倶楽部のようにすんなり終わらせればよかったのに、番組におかしな設定というものを持ち込んで(200X年、日本では禁笑法というのができて、法の網を逃れてこれら私から見るとつまらないコメディを見ていて、それを誰かに監視されていて、最後隠しカメラで見張られているということに気付いて逃げるというもの)見ていたこちらは全身の力が抜けてしまいました(^^;)。前言を撤回します。一番つまらなかったのは、NHKの番組スタッフの演出でした。
- 辺見庸 世紀末の風景「堀内君と私」(NHK教育・99.2.10)
おかしいと思ったら、すぐさま行動に移さなくてはならないのか。個人的には、原子力発電所反対運動が起こったときに、肌で感じたことです。幸いにして私の回りには運動をしない私を差別するような人はいませんでしたが、ちょっとした心のわだかまりはありました。でも、実際に行動に表さなくても、何かできることがあるのではないかというのは薄々感じていて、細々とこういう場を使って書いているわけです。
作家の辺見庸さんは、激しく自分の主張をテレビに向かって吐き出すような人ではありません。ベストセラーになった『もの食う人々』でもわかるとおり、生活の中で実践することで、自分の主張を押し通すような人ではないかと私には思われます。テレビを騒がす評論家という人たちは、どんな家に住んでいるのかわかりませんが、辺見さんは東京の山谷地区で暮らし、ある種社会の底辺に暮らす人たちを眺めながら暮らしています。そうした雰囲気が、今回出演した堀内君の心にも訴えるものがあったのかも知れません。
堀内君は血友病患者で28歳。HIVウィルスに冒されていて、そのことを明らかにすることで辺見さんとの交流が始まったそうです。厚生省との抗議運動には関わる気にならず、自分はどうあったらいいのか悩んでいます。番組は、ちょっと格好良すぎるセットの上で、あてもなく二人が語り合っているという。
おそらく辺見さんは、番組の中でも語っていたのですが、そうした堀内君の心の葛藤をとにかく記録にとどめておきたいと思ったのでしょうね。結論の出る問題ではないし、尻切れトンボで終わってしまいそうになりました。最後に、番組のディレクターがまとめのコメントを堀内君に求めようとしたときに、辺見さんが静かに一喝。時間内にまとめるのはテレビの作り方ではあるのですが、そう言う意味で考えれば、この番組はものすごい前衛的なものに仕上がったように感じています。見ているものに懇切丁寧に説明するものよりも、見ている人にも一緒に考えてもらう、そんな感じです。しかし、この番組を見ている堀内君と同世代の人たちはどれくらいいるのでしょうか。
- 人気者で行こう!(テレビ朝日・99.2.9)
実は普段ほとんどこの番組は見ないんですが、内容はダウンタウンの浜ちゃんが、一派の人気者を引き連れてのバラエティ番組です。今日の内容は出演者である人気者たちが、本日のギャラを決めるために早食い大食いに挑戦というものでしたが、そこに人気者でない一人の『普通の』主婦が。その名前と姿を見て、ついつい見てしまったというわけです。
その人の名は、赤坂さん(^^)。この人は知る人ぞ知るテレビ東京系列『TVチャンピオン』が生み出したヒロイン、並み居る強豪を蹴散らしてチャンピオンになった大食いと早食いを兼ね備えた女性なのです。
前回の大食い早食い選手権では、もう引退すると言っていたのですが、なんと他局の番組でその雄志を見られるとは思っていませんでした。しかし、回転寿司15分で36皿だとか、まだまだその力は衰えていないという感じですね。同じ番組からは、アメリカでのホットドック早食い競争で二年連続優勝した中島さんというスターも生み出しましたが、あの人たちは普通の人と言っても、見ている私たちに感動を与えるほど食べるのですから。
結論から言うと、並み居る人気者たちを完全に食ってしまっていたように思います。プロモーションに大金をかけたタレントよりもすごい人材を発掘するテレビ東京はすごいとつくづく思ってしまいましたね。しかし、静岡ではキー局ではないので、ここでリアルタイムに番組を紹介できないのがつらいところです。
- ニッポン仕事人列伝「無線遠視を夢みた男 テレビの父・高柳健次郎」(NHK教育・99.2.1)
今日、2月1日はなんの日か。ここはテレビのことを書いている場所ですからおおよその察しはつくでしょう。NHKがテレビジョンの本放送を開始したのが1953年の2月1日なのです。しかし、それまでの先人の苦労というものは並大抵ではない。みなさん、今後はテレビを見て笑うのではなく、泣きましょう(^^;)。
高柳氏は浜松高工でブラウン管を使った電子式のテレビジョンを研究していたのですが、学生として入ってきたときがラジオの本放送が始まったときで、テレビの研究をすると言ったら、当時の教授から呆れられたということです。高柳氏のすごいのは、ものすごく遠いと思われるところに目標を置いて研究をしていたと言うところでしょうか。テレビの本放送が始まった時には、もうカラーテレビの構想を練っていたという。各種のテレビ論も、その技術的裏打ちがなければできなかったし、早いうちからテレビが庶民のものとなったのも、高柳氏の研究のおかげといえるでしょうね。
ここでは、番組についての考察を主にしていますが、よくよく考えれば、テレビというもののコンセプトというものはすごいものであると思えます。自宅に居ながらにしていろんなものが見られる。カメラの行くところ、こちらからカメラはコントロールできないものの地球の裏側の出来事を、自宅から一歩も外に出ることなく見られるのですからね。
そんな、中継の一番の効果として様々なスポーツ中継が人気を博したのは自然の流れだし、今日などは衛星放送ですが、アメリカのフロリダから、アメリカンフットボールの全米一決定戦を生で見られるなど生中継の魅力というのは今も変わりません。日本で最初にブレークしたのはプロレス中継でしたが、何と言うことかそんな日にプロレスラーのジャイアント馬場さんの訃報が入ってきました。少なくとも、プロレスというスポーツはテレビの力なしには、これだけの人気というものは出なかったのではないでしょうか。まさに生中継の臨場感と速報性。こうした特徴をいち早く見抜き、テレビジョン実現に向けて研究に着手した高柳さんはもっと評価されてもいいのではないでしょうか。
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