2000年6月のテレビ
- 世界名画劇場『奇跡の人』(NHK教育・2000.6.25)
世間では今世紀最後の衆議院選挙の行方がどうなるかという興味で、選挙特番を見ているんでしょうが、つい他のチャンネルに回したことでこの映画を見てそのまま見まくってしまったという(^^;)。だって画面の緊張感がものすごくて、一瞬たりとも気が抜けなかったのですから。ご存じとは思いますが、この映画は三重苦を克服したヘレン・ケラーとその師であるサリバン先生の物語です。こういう映画を選挙にぶつけるなよと叫んでしまいそうですが(^^;)、日本中が国の将来を考えている時に人間の魂の根っこにあるものを思い出させてくれるというのは、すばらしいことですね。選挙結果はどうせまだ決まるにはもう少しかかるでしょうし、この時間は無駄ではありませんでした。
- その時歴史が動いた『実録・大化の改新』(NHK総合・2000.6.21)
たまたま、この辺の歴史について専門書を漁っている時だったので、興味深く見ましたが、タイトルが大層な割には目新しいことはありませんでした。聖徳太子のころから、日本と朝鮮半島の国々との交流といえば百済という形になっていました。これは、当時の権力者の出所が百済だからで、そうではない新羅や高句麗の出身者とはそりが合いません。日本の古代の政治というのは、ある意味出身地域による勢力争いともいえるわけで、結局百済一辺倒から脱却しようとした蘇我入鹿を殺すことで、百済一派が権力を掌握。朝鮮半島の情勢判断を完全に誤り、百済を支援して当時朝鮮半島を統一した新羅(実際は唐との連合軍)に戦いを挑んで大敗北するという。そうした大きな犠牲を払わなければ自分たちの政策の誤りが分からなかったのですね。それが入鹿殺しのクーデターの一部始終でした。
しかしそもそも、馬子とか蝦夷とか入鹿とか、人間の名前じゃありませんよね(^^;)。これはまさに勝者の論理で、勝った側が歴史を作るという象徴的な事実です。番組では『入鹿が』と何度も出てきましたが、当時のことをそのままやるんだったら、あとから憎さ百倍で付けられた名前でなく『林太郎』とか、『鞍作』とか、ちゃんとついていた名前があったのですから、まずその点について今までのイメージを打破して欲しかったですね。個人的には勝者が歴史を作るという考えにはちょっとすなおに従えない部分があって、歴史というものは弱者や敗者の側から見ていくと更に面白くなると考えています。今後はそんな番組作りに期待したいところですが。
- 映画『おかしなおかしな石器人』(2000.6.9)
これまではつとめて全国ネットの番組を取り上げてきたのですが、この映画は多分私の住んでいる静岡地区だけで放送されたものでしょう。かのビートルズのリンゴ・スターが主演するナンセンスな原始時代ギャグ映画とでも書けばわかってもらえるでしょうか(^^)。何といっても東宝の特撮怪獣映画を見慣れた目にしてみれば、なんともちゃちな恐竜が登場したりしますが、基調は直立歩行をしたり、火を発見したりと当時の社会を革命するという、ビートルズの一員らしくリンゴが演じているという感じです(^^)。
しかし、ここにこうして書こうと思ったのは、リンゴ・スターが主演しているからだけではありません。この映画は字幕ではなく、日本の声優による吹き替え版です。もともと筋などあった物ではない(^^;)映画に無理に吹き替えをするとどうなるか。もともとの台詞にないことまでいい加減に作って話してしまうという。ちなみに、主演のリンゴの声を担当しているのが、あの広川太一郎さんとくれば皆さんおわかりですね(^^;)。この映画は広川さんを中心にしたまさに珠玉の話芸が至る所にちりばめられているのです。
最近はDVDディスクで字幕を付けて外国の映画を見ることになれてしまっていますが、逆にこんなに楽しいアテレコの面白さというのには出会えなくなりました。本来なら広川さんの話芸というのはちゃんと残して、まとめて見られるようにしておいて欲しいのですが。
- 映画『リュミエール・ザ・フィルム』(NHKBS2・2000.6.4)
リュミエールとは最初にスクリーンに移すシネマトグラフを発明した兄弟の名前です。100年以上前の映像をまとめて紹介するというのがこの映画。しかし、思ったよりずっとはっきり映っているのは仰天しました。映画はすべて短いもので、50秒程度だということですがそれを100本ぐらい紹介しています。
考えてみると、この映画に出て来る人たちは誰一人としてこの世に生きていないというのは凄いですね。また、今の常識からすると何でもない駅に到着する列車の映像など100本以上も撮っていたそうで、こんなものが受けていたのです。
これがまさに初めての歴史を語る映像だとしたら、後数百年後の人たちは、歴史を本だけではなく映像でも実感されるのでしょう。そうなると、どんなにえらそうに振る舞っている人でも、その様子がすべて映像に残ってしまうのですから、あとあとでも尊敬されるかというとそれはどうか。すべてをさらけ出してしまう映像というのは、やはり諸刃の剣という気がしみじみしました。
- NNNドキュメント00『自殺で親を失った』(日本テレビ・2000.6.4)
親に限らず、自分の身近な人が亡くなると言うことは大事件です。ただ、亡くなるにもその死に方によって差別があるということがだんだんとわかってきました。親を自殺で亡くした子供たちにとっては、自分の親が自殺したという事実はなかなか口に出して言えないということなのですね。これは自殺ではありませんが、犯罪被害者として亡くなった人の家族なども、相当辛い目に会っているようです。同じ亡くなるのでも、労災に認定されたり、交通事故については保険による政府としての補償があるのに。
番組では親が自殺した体験を持つ大学生たちが文集を作り、基金設立のための募金活動を行っているところを紹介していましたが、街頭ではなかなか自分の体験を言葉にすることはできません。まあ、それはそうでしょう。やはり家庭というものを持ったからには、最初から責任を逃れるのでなければ、後々まで面倒を見る覚悟でやらなくては。そうでないと今後また、多くの親を亡くした子供たちを再生産するだけです。ただ、今後のことを考えるとこの国の現状は絶望的です。多く子供を産んで育てれば育てるほど生活が大変になるようになっているのですね。家のローンで首が回らなくなったりもして。はっきりいってそうした社会の仕組み自体についても突っ込んでレポートして欲しかったです。
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