学校の歴史で教えてくれない歴史の最たるものは、現代史であることは疑いのない事実なのですが、政治的にでも国際情勢が変化する場合には新聞や雑誌などにより学習を余儀なくされるということもあるわけです。藤子不二雄A氏が毛沢東の伝記を書いていたことを驚く前に、この年代についてまず指摘しておきましょう。1970年というのは中華人民共和国と日本との国交に向けて政治が動きだした時代にあたり、そんな流れで書かれた作品だということができます。それにしても、この作品の掲載誌は『週間漫画サンデー』であり、特に初回が掲載された時には、谷岡ヤスジのナンセンス漫画と、男性専科のピンクルポの間に挟まっていたそうな(^^;)。藤子A氏はそれでなくても重厚な線を得意とするのに(プロゴルファー猿や魔太郎がくる! のようなタッチでリアルに毛沢東を描いているところを想像してみてください(^^;))、当時はあまりにこの漫画が雑誌から浮き上がってしまって困ったということです。
まあ、そういう時代の作品ですからいわゆる毛沢東の影にあたる記述は全くなされていません。エドガー・スノー『中国の赤い星』に出てくる長征をなし遂げた英雄としての毛沢東のことを描いています。とはいっても私は雑誌連載中から読んでいたのではなくて、1990年に書名を『毛沢東の長征』と改め、徳間書店より出版された単行本で読ませていただきました。前年に天安門事件があり、その様子だけが前後に書き加えられていますが、全般的に毛沢東を賛辞する内容に終始しています。
しかし、こういう作品を見ると、今の作家とは違って幅の広い創作活動をこの時代の漫画家さんたちはやっていたなと思います。手塚治虫氏はもちろんですが、相棒の藤子F不二雄さんにはSFを題材にした秀作がありますし、石森(後に石ノ森)章太郎さんは沼正三氏の奇書『家畜人ヤプー』を漫画化していたりします。それにしても藤子A氏の『A』は『アナーキー』のAかと思うほど(^^;)ですね。これはまた改めて紹介したい、井上陽水氏の歌で有名になった『少年時代』。これなども当時の漫画の常識からはずれた作品でしたし。
たまたまこの文章を書く前の日に、中国の首脳が日本でテレビ討論(といっても生中継ではない(^^;))を行いました。中国と日本という関係は好むと好まざるとに関わらず、隣国である私たちにはついて回ることでもあります。でも、思いの外私たちは中国のことについては知りません。ここで藤子A氏が描いている中華人民共和国成立に至る経緯というのも大切なことですが、できたらその続きである文化大革命以降の毛沢東についても描いて欲しいですし、むしろ私としては藤子A氏がどのように素材を料理するかというところに興味があります。漫画なら読めると居直ってしまう私も私ですが(^^;)、ぜひ続編を望みたいところであります。(2000.10.15)
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